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『節約の王道』(林望,日本経済新聞出版社,2009.10.08) [本]

ロングセラーになる勢い、というインタビューを『週刊東洋経済』で読んだので、買って読んでみた。
まず、巻頭に掲げられている橘曙覧(たちばなのあけみ)の『独楽吟』に、心打たれた。
以下、引用。

たのしみは妻子(めこ)むつまじくうちつどひ頭(かしら)ならべて物をくふ時
たのしみは空暖かにうち晴れし春秋(はるあき)の日に出(い)でありく時
たのしみはまれに魚烹(うおに)て児等(こら)皆がうましうましといひて食ふ時
たのしみは心をおかぬ友どちと笑ひかたりて腹をよるとき
たのしみは家内(やうち)五人(いつたり)五たりが風(かぜ)だにひかでありあへる時
たのしみは三人(みたり)の児(こ)どもすくすくと大きくなれる姿みる時
たのしみは小豆(あずき)の飯(いひ)の冷えたるを茶漬けてふ物になしてくふ時
たのしみは欲しかりし物銭ぶくろうちかたぶけて買ひえたるとき


橘曙覧という人物については、この本で初めて知った。
どういう人物かというと、「週刊東洋経済」のインタビューでの筆者による解説によると、明治維新になる直前になくなった福井の人、とのこと。
藩主の松平春嶽がその令名を聞いて訪ねて行き、あまりの貧乏さを見てびっくりした、という逸話を持ち、だが、書物だけはきちんと積んである中で、家族睦まじく暮らす、人間の幸せの見本のような人だったらしい。

たしかに、楽しみというか、幸せの原型とは、こういう地に足のついた喜びの積み重ねなのだと思う。
私には、遠い遠い風景だけれど。

以下、目次は次のとおり。

序章  節約は楽しい
第一章 食……節約食とはすなわち健康食である
第二章 お金の管理……万札は、崩さない
第三章 交際費……虚礼に金を費やすな
第四章 衣服と車……見栄ほど醜いものはない
第五章 旅行、趣味……金はなくとも余暇は楽しめる
第六章 教育……人生最大の投資と捉えよ
第七章 住まい……自分の軸を揺るがすな
終章  節約と人生


本の帯に大きく書かれている「金をおろすなら、34,000円に限る」というキャッチ・フレーズは、第二章に書かれている。
ATMからお金を引き出すときは、必ず33,000円とか34,000円にして、30,000円に端数をつけて引き出すことで、その端数の4,000円を使っている間は、30,000円を崩さないようにしようという意識が働き、しばらくの間、自然に節約することになる、というのが筆者の主張。
だが、個人的には、崩さなければならないときには抵抗感なく崩すので、それで自然に節約することになる、との主張には、あまり実感が持てない。

また、「節約の王道は合理主義にあり」ということで、本文中、共感できる部分も多々あるのだが、車移動を高く評価している点には強い違和感を感じた。
筆者も、自然環境への負荷という点について、車は辛いところがある、と認めているのだが、一方で、電気自動車にシフトしていけば、走行中の二酸化炭素の排出量がゼロになり、地球環境への負荷という問題は解決されるはず、と書かれている。

しかし、果たしてそうだろうか?
電気自動車の動力源となる電気を発電する際に排出される二酸化炭素の量は、ガソリン・エンジンに比べれば少ないだろうが、ゼロではない。また、電気自動車には大量のバッテリーが搭載されるが、その廃棄やリサイクルの際に生じる環境負荷のことについては触れられてすらいない。
そもそも、東京から大阪までの移動を、単純にガソリン代等の合計だけで比較し、年間維持費(車検、保険料、税金、駐車場)を全く計算に入れていないのでは、比較にすらなっていないのではないだろうか?
その上、車移動の方が移動時間が長くなることや、事故の危険、運転に由来する疲労などについても、全く考慮されていないのは、我田引水というか、牽強付会というか、学者としていかがなものか?

780円の新書だが、読後感で評価すると、巻頭の『独楽吟』から受けた感動を除いては、なんだかかなり割高に感じられてしまう一冊だった。
『イギリスはおいしい』以来、何冊も読んできたリンボウ先生の著作だけに、なんだかとても残念に思えてならない。


節約の王道(日経プレミアシリーズ)

節約の王道(日経プレミアシリーズ)

  • 作者: 林 望
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2009/10/09
  • メディア: 新書

イギリスはおいしい (文春文庫)

イギリスはおいしい (文春文庫)

  • 作者: 林 望
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1995/09
  • メディア: 文庫



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