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『女落語家の「二つ目」修行』(川柳つくし,双葉社,2010.07.04) [本]

現在、「二つ目」の女流落語家による自伝。
読了して思ったのは、ミムラ主演で映画にもなった『落語娘』(永田俊也,講談社,2005.12.15)との共通点の多さ。
直接の関係があるのかどうかはわからないが、いろいろなエピソードに共通点が感じられた。

鈴本演芸場で日曜日の朝にやっている「早朝寄席」を観ていてもなんとなく感じられるように、そもそも「二つ目」というのは大変そうなポジションだが、さらに女流というハンデが加わると、もう、ほんとうに大変なんだろうなぁ、と感じてしまった。
それでも、踏ん張れているのは、落語家という道に魅力があるからなんだろう、きっと。

作者の修行話も興味深いが、それを補強する形で展開されているのが、『師匠方の「二つ目時代」』というインタビュー。
春風亭昇太、立川志の輔、柳亭市馬、柳家喬太郎と錚々たる面々。
中でも、他の面々が二つ目時代にはそれなりに苦労があった、と語っている一方で、「それが、僕のときって、ちょうどバブルの真っ只中だったの。だから、バイトが山のようにあって、毎週土日は絶対どこかで営業してたんだよね。全っ然苦労しなかった」と語る春風亭昇太の飄々とした語り口が印象的だった。
苦労していないわけはないのに、苦労を苦労と感じない才が、今の彼を支えているのだろう。

ネットで調べたところ、筆者の川柳つくしさんは、10月10日の鈴本演芸場の早朝寄席には出演されるらしい。
時間を作って、ぜひ一度、彼女の高座を聴いてみたいと思う。


女落語家の「二つ目」修業

女落語家の「二つ目」修業

  • 作者: 川柳 つくし
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2010/06/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

落語娘 (講談社文庫)

落語娘 (講談社文庫)

  • 作者: 永田 俊也
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/06/13
  • メディア: 文庫



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『ぼくのエリ - 200歳の少女』 [映画]

銀座テアトルシネマで8/27まで公開されている『ぼくのエリ - 200歳の少女』を観てきました。
勘のいい人なら「200歳の少女」という副題で気がつくでしょうが、冬のストックホルム郊外の街を舞台にした吸血鬼映画です。

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英題は、“Let The Right One In”。
原題も同じ意味合いらしいですが、「正しいものを受け入れよ」とでも訳せばいいんでしょうか?
ハリウッド・リメイク版は“Let Me In”。
部屋の主に招き入れられないと、その部屋には入ることができない、という吸血鬼に関する伝説と「私を受け入れてほしい」という吸血鬼の少女の思いを重ね合わせているのでしょうか?

映画評などでも評価が高いようですが、たしかに私が今までに見た吸血鬼映画の中でも、現代を生きる吸血鬼の生活をリアルに描いているという点で、あの『ニア・ダーク - 月夜の出来事』を凌ぐインパクトのある映像でした。

12歳で幼生固定されているエリ。
そんなエリを保護する中年男性。
そして、エリと恋に落ちる12歳の少年オスカー。

映画の中では、名前すら与えられていなかった中年男性は、かつてのオスカーと同じ。
半世紀近い昔、エリと巡り会い、彼女を愛し、守護者となることを選んだのだろう。
彼は、エリのために人を殺め、逆さに吊って血抜きをして、彼女の食料となる「生き血」を手に入れる。
そればかりか、自分の身に追っ手が迫ると、壮絶な痛みを伴うだろうに、身元がわからないよう、自らの顔を薬品で焼く。
そして、最後には、自らの生き血をエリに分け与えた後、病院の窓から身を投じ、命を絶つ。
徹底的な、見ているだけで痛さが伝わるような献身と忠誠心。
一緒に年老いることのできないエリにとって、男性はどんな存在だったのか?

エリの助言で、いじめっ子に対抗したオスカーは、計画的な反撃を受け、プールで溺死させられそうになるが、いじめっ子たちを一瞬で虐殺したエリに救われる。

劇の最後、エリがオスカーに残したメモに記されていた「ここを去って生き延びるか。とどまって死を迎えるか。あなたのエリより」という言葉に導かれたかのように、オスカーとエリは列車で旅に出る。
オスカーの足元には大きな箱。中からはモールス信号。
これからは、オスカーがエリを護るのだ。その命の続くかぎり。

原作の『モールス』は未読なのですが、早く読んでみよう、と思う映画でした。
映画では省略されている部分が多いらしく、楽しみです。

ぼくのエリ - 200歳の少女
http://www.bokueli.com/



MORSE〈上〉―モールス (ハヤカワ文庫NV)

MORSE〈上〉―モールス (ハヤカワ文庫NV)

  • 作者: ヨン・アイヴィデ リンドクヴィスト
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2009/12/30
  • メディア: 新書

MORSE〈下〉―モールス (ハヤカワ文庫NV)

MORSE〈下〉―モールス (ハヤカワ文庫NV)

  • 作者: ヨン・アイヴィデ リンドクヴィスト
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2009/12
  • メディア: 新書



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瀬戸内国際芸術祭2010 - 小豆島 (2) 土と生命の図書館 [美術]

 香川県の直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、高松港周辺、岡山県の犬島を会場に、7月19日から10月31日まで開催されている「瀬戸内国際芸術祭2010」に行ってきました。
 直島や犬島は何度か足を運んだことがあったので、手始めに、あまり馴染みのない小豆島へ。

 岡山からのフェリーで土庄港に到着後、芸術祭線のバスで、肥土山・中山地区に移動。
 常盤橋前のバス停で降りてすぐ左手の倉庫(旧大鐸米倉庫)の中にある「心の巨人」を見終わった後、道路を隔てて向かいにある旧大鐸小学校へ向かいます。
 この廃校となった小学校の2階の図書館にある作品が、栗田宏一の「土と生命の図書館」。
 瀬戸内海の沿岸の随所で採取した土を採取した順番に和紙の上に並べた、という、その説明だけを聞くと、なんのことはない作品のように思われますが、その幾何学的なパターンというか、色彩の豊かさに圧倒されました。

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 近寄ってみると、こんな感じ。
 ほんとうに和紙の上に土が載せられて(盛られて)いるだけです。

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 展示会場にいらしたガイドの方から聞いたお話によると、この作品は、その性質上、極端に風に弱い(飛ばされてしまう)ので、図書館を閉め切って、この作品だけは特別に空調をかけている、とのことでした。
 実際、小豆島にある他の作品は、例え屋内にある作品(つぎつぎきんつぎ)でも空調とは無縁でした。

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 図書館の黒板には、作者の栗田氏による解説が書かれていました。
 転記すると、次のとおり。

土と生命の図書館
  • 土は和紙のうえにのせてあるだけです。さわらないでね!
  • 瀬戸内海に面した土地、および瀬戸内海に流れ込むすべての河川の流域で採集した土です。兵庫県、岡山県、香川県、愛媛県、広島県、山口県、福岡県、大分県のおよそ350市町村で採集した600の土。
  • 採集した後、乾燥させ、根っこや葉っぱをピンセットでつまみ出しただけで、色をつけたりしていない自然のままの土です。
  • 田んぼや畑、ガケなどから片手にひとにぎりだけ採集します
  • 並べてある順番は、採集した順番のままです
  • どうして土を拾うのでしょうか? みなさんで考えてみましょう!

 それぞれは、なんの変哲もないように見えるタイル状に並べられた土が、全体で見ると、素晴らしいグラデーションとコントラストを作り出していました。
 なにより、そのグラデーションが作為的なものではなく、採取した順番で並べただけで構成されていることに驚かされ、しばらく見入ってしまいました。
 角度に寄って濃淡や色合いが変わりますので、足を運ばれる方は、ぜひゆっくりと、いろんな角度から堪能してみてください。飽きません。
 ……空調が効いていて、涼しいですし。(^_^;)

 この旧大鐸小学校には、他にも公式グッズを買えるコーナーもあり、また、中国系の作家の手になる作品も展示されていました。
 元は校長室らしい部屋の雰囲気を活かし、七夕の笹の代わりに壁面に貼られた小さい手袋の中に願い事などを書いた緑色の紙を差していく、という参加型の作品でした。

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Today's Tips
 芸術祭を効率的に回るなら、美術手帖2010年6月号増刊の『瀬戸内国際芸術祭2010 公式ガイドブック-アートをめぐる旅・完全ガイド』(1,260円)を事前に入手されておくことをオススメします。
 作品解説ばかりでなく、移動等に必要となる情報の全て(といっても過言ではない)が網羅されており、少なくとも小豆島に関するかぎり、公式ガイドブックに記されていない情報はない、と断言できるほどの完成度です。
 実際、鑑賞者の方以外にも、会場で案内をされている方(ボランティア・ガイドの方?)でも多くの方が持たれていて、無数のポストイットが貼り込まれ、使い込まれた趣になっている本の姿から、そのお役立ち度がうかがえました。

美術手帖6月号増刊 瀬戸内国際芸術祭2010公式ガイドブック

美術手帖6月号増刊 瀬戸内国際芸術祭2010公式ガイドブック

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 美術出版社
  • 発売日: 2010/06/15
  • メディア: 雑誌

 第3回に続きます。

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瀬戸内国際芸術祭2010 - 小豆島 (1) 心の巨人 [美術]

 香川県の直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、高松港周辺、岡山県の犬島を会場に、7月19日から10月31日まで開催されている「瀬戸内国際芸術祭2010」に行ってきました。
 直島や犬島は何度か足を運んだことがあったので、手始めに、あまり馴染みのない小豆島へ。

 岡山からのフェリーで土庄港に14時過ぎに到着後、開催期間中のみ運行されている芸術祭線のバスで、まず肥土山・中山地区を目指します。
 常盤橋前のバス停で下りると、すぐ目に入るのが芸術祭の空色の幟(のぼり)。
 この後も、ずっとこの幟が目印になってくれました。

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 バスを降りてすぐ左手の倉庫(旧大鐸米倉庫)の中にある作品が、河口龍夫の「心の巨人」。
 壁に取り付けられた銅線が大きな人型を形作っていました。
 なんだか不思議な存在感を感じるインスタレーションでした。

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Today's Tips
芸術祭線のバスを利用するなら、1日フリー乗車券(700円、芸術祭線のみ乗り放題)を購入されるのが絶対にオススメです。(フェリー乗り場の他、車内でも購入できます)
バスの乗り降りがスムーズで、他のお客さんの邪魔にもなりませんし、なにしろ土庄港~常盤橋前(距離制で片道350円)を往復するだけで元が取れます。


 第2回(土と生命の図書館)に続きます。


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