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Q10 [本]


Q10シナリオBOOK

Q10シナリオBOOK

  • 作者: 木皿 泉
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2011/01/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



Otome continue Vol.4

Otome continue Vol.4

  • 作者: 木皿 泉
  • 出版社/メーカー: 太田出版
  • 発売日: 2011/01/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



『Q10』DVD-BOX

『Q10』DVD-BOX

  • 出版社/メーカー: バップ
  • メディア: DVD



タグ:Q10
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『ダイナミックフィギュア』(三島浩司,早川書房,2011.02.25) [本]

早川書房のJコレクションを読むのも、三島浩司という作家の本を読むのもこれが初めて。
読むきっかけは、どこかの新聞か雑誌で見かけた書評だったが、最後まで興味深く読めた。
次のページを早く読みたくて、夜更かししてしまったのは久しぶり。
いわゆる“page turner”ですね。

物語の主たる舞台は、香川県全域。
あらすじは、ごくかいつまんでしまうと、剣山に落下した異星からの生命体(キッカイ)と人型二足歩行兵器(ダイナミックフィギュア)との戦いを緻密に描いたもの。
随所に、同じく人型二足歩行兵器(汎用人型決戦兵器)を主役に据えた『新世紀エヴァンゲリオン』の影響も感じられるが、異星生命体を世代ごとに進化する「概念を学ぶもの」と設定したところや、人型二足歩行兵器の出撃の可否を関係諸国との協議で決めるという描写は斬新。

物語は、基本的には淡々と書かれているのだが、ところどころ熱く燃え上がるのはずるい。
そして、最終決戦においても、勝負を決するのは、なんと「魂」の概念。
「狙いを定めた入魂の銃弾は通る」、というのだが、アニメならともかく(『機動戦士Zガンダム』の最終話には、主人公のカミーユ・ビダンが、エマ・シーンやフォウ・ムラサメといった死んでいった者たちの魂の力を借りて、敵であるパプテマス・シロッコを倒す、という描写がある)、リアル志向のSF小説として、これはいささか禁じ手なのではないだろうか?

そして、心に残ったのは、最終章の「ユー・セイ」という言葉。
以下、引用。

「ユー・セイ。叩いちゃいけませんよ」
 非常に多くの意味を持った「ユー・セイ」。ときにケンカをしている子供たちに向けられ、ときに仲裁の決まり文句として大人たちをうながすためにも使われる。謝罪に代えてもいいし、感謝の気持ちを伝えることもできる。調和や融和をもたらす、誰もが愛してやまない言葉だ。
(中略)
 STPFから生還した男が真っ先に訴えた言葉。つたない英語がメッセージとなってそのまま世界中に広まってしまったのだ。そのフレーズは世界的イベントが続く七月から二ヶ月の間にもっとも頻繁に口にされる。世界中で故人の死を悼む人々は、悪夢をよみがえらせて激しい感情を露わにすることもある。そのようなとき、周りの人間は空を指さしながらいうのだ。
「ユー・セイ」にはその続きがあってフレーズになる。
 You Say “Love Tsukushi”.
「あの娘を許してやれよ」という意味だ。
 全体の調和を望みながら、最後には個人的行為に徹した一人の若者。その人間的な弱さに共感して彼の理念を引き継ごうとするのだ。

……泣ける。
少年(栂遊星)は少女(公文土筆)を愛し抜き、そして、調和と融和の象徴になったのだ。



ダイナミックフィギュア〈上〉 (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

ダイナミックフィギュア〈上〉 (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

  • 作者: 三島 浩司
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2011/02/25
  • メディア: 単行本

ダイナミックフィギュア〈下〉 (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

ダイナミックフィギュア〈下〉 (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

  • 作者: 三島 浩司
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2011/02/25
  • メディア: 単行本



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『女落語家の「二つ目」修行』(川柳つくし,双葉社,2010.07.04) [本]

現在、「二つ目」の女流落語家による自伝。
読了して思ったのは、ミムラ主演で映画にもなった『落語娘』(永田俊也,講談社,2005.12.15)との共通点の多さ。
直接の関係があるのかどうかはわからないが、いろいろなエピソードに共通点が感じられた。

鈴本演芸場で日曜日の朝にやっている「早朝寄席」を観ていてもなんとなく感じられるように、そもそも「二つ目」というのは大変そうなポジションだが、さらに女流というハンデが加わると、もう、ほんとうに大変なんだろうなぁ、と感じてしまった。
それでも、踏ん張れているのは、落語家という道に魅力があるからなんだろう、きっと。

作者の修行話も興味深いが、それを補強する形で展開されているのが、『師匠方の「二つ目時代」』というインタビュー。
春風亭昇太、立川志の輔、柳亭市馬、柳家喬太郎と錚々たる面々。
中でも、他の面々が二つ目時代にはそれなりに苦労があった、と語っている一方で、「それが、僕のときって、ちょうどバブルの真っ只中だったの。だから、バイトが山のようにあって、毎週土日は絶対どこかで営業してたんだよね。全っ然苦労しなかった」と語る春風亭昇太の飄々とした語り口が印象的だった。
苦労していないわけはないのに、苦労を苦労と感じない才が、今の彼を支えているのだろう。

ネットで調べたところ、筆者の川柳つくしさんは、10月10日の鈴本演芸場の早朝寄席には出演されるらしい。
時間を作って、ぜひ一度、彼女の高座を聴いてみたいと思う。


女落語家の「二つ目」修業

女落語家の「二つ目」修業

  • 作者: 川柳 つくし
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2010/06/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

落語娘 (講談社文庫)

落語娘 (講談社文庫)

  • 作者: 永田 俊也
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/06/13
  • メディア: 文庫



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『天地明察』(冲方丁,角川書店,2009.11.30) [本]

ようやく読了。
渋川春海という囲碁の達人が、改暦にかける物語。
こんな人物がいたということそのものが感動。
特に、登場人物の学問への熱意に心を打たれた。

P.179
「値を三度もの幅で誤るとは。いっそ己が身を海に投げ込みたい思いじゃ」
 天測における一分の違いは、地上においては半里もの差となる。三度の違いとなればここから遙か南の海の真っ只中に等しいゆえの建部の言葉だった。それが春海にもわかった。だが次の言葉は、春海の思案の枠すら遙かに超えた。
「なんとしたものか……どこかで歩測を大幅に謝ったに違いない」
「歩測?」
 思わず春海は口にした。すなわち歩数を数えることである。いったいどこからか。咄嗟に混乱したが、答えは一つしかない。
「まさか……江戸からでございますか?」
「うむ」
「はい」
 当然だろうと言うように建部と伊藤にうなずかれ、春海は愕然となった。建部だけでなく伊藤までもが、江戸からここまで己の歩数を延々と数え歩いてきたというのである。
 いったいなんのためか。二人の傍らに置かれたそろばんの意味がやっと分かった。
「お……お二人様は、歩測と算術で、北極出地を予測されておられたのですか?」
「うん」
「うん」
 当然というより無邪気きわまりない返答が来た。
 しわくちゃの顔をしただけで実はまったく歳を取っていない二人の少年が目の前にいるかのように錯覚され、春海は、なぜかぶるっと身が震えた。体内の嫌な陰の気がどっと体外に放出されて、新たな気が入ってくるようだった。まさに息吹だった。心から祓われ浄められるということを生まれて初めて実感した。この二人にわけも分からぬままそうさせられた。

P.181
 春海は慌ててかぶりを振った。
「し、しかし、私では、術式でも答えでも誤りを犯すだけで……」
「それは良い。全霊を尽くして誤答を出すがいい」
「そうですそうです。遠慮なく外して下さい」
 建部と伊藤が次々に言った。どちらも稚気と言っていいような陽気さを発散しており、春海はそれにあっさり呑み込まれた。寒い冬の日に火鉢を抱いたような温かさを感じた。

P.182
 建部が言った通り、中間たちが率いる別の隊によって道中の距離が測定されながら移動が行われた。それでも建部も伊藤も、ほとんど喋らず、黙々と歩いている。地道に歩数を数えているのは明らかだった。その歩みを二人の背後で見つめながら、突然、昨夜のようにぶるっと身が震えた。震えが膚にいつまでも残るようだった。しばらく歩き続けてやっと、それが単純でいて底深い感動のさざなみであることを悟った。

P.188
 “私でも、良いのですか”
 関への設問を誓ったあの晩、稿本に向かって問うた思いが、再び熱く胸に湧いた。
 一心に北極星を見つめた。まさに天元たるその星の加護があるのだと信じたかった。いつでもあるのだと。誰にでも。ただ空に目を向けさえすれば。
「この私でも……」
 そろそろと息を吐きながら小声でささやいた。
 星は答えない。決して拒みもしない。それは天地の始まりから宙にあって、ただ何者かによって解かれるのを待ち続ける、天意という名の設問であった。

P.207
 たちまち建部と伊藤が一緒になって食いついた。勢い、春海は金王八幡の算額絵馬のことや礒村塾や“一瞥即解の士”たる関孝和について話さざるを得なくなり、
「そのような人物が江戸にいるとは」
 建部など力いっぱい拳を握りしめ、
「ぜひ弟子入りしたい」
 はっきりとそう言った。なんと伊藤まで首肯している。この二人の老人にとって研鑽のためなら三十も年下の若者に頭を垂れることなど苦でも何でもないらしい。それどころか、
「だいたいにして若い師というのは実によろしい」
「ええ、ええ。教えの途中で、ぽっくり逝かれてしまうということがありませんから」
 などと喜び合うのだった。

P.219
 いったい二人とも、どうしてこう、途方もない一大構想を自分に見せつけようとするのか。何か自分に含むところでもあるのか。ついつい本気でそう口にしたくなった。
「いえいえ、私の年齢じゃ、寿命が来るまでにはとても追っつかないでしょうねえ」
 と伊藤は言う。だが逆に言えば、それは、実際にやろうと算段を整える努力をしたことがあるということだ。天まで届く巨大な城の設計図を試しに書いてみたと言っているに等しい。
 それだけでもどれほどの学問修得と日々の研鑽が必要だったか。想像して春海の背をぶるっと震えが駆け抜けた。
「なら、ねえ……若い人に、考えだけでも、伝えておきたいと思いましてねえ……」
 伊藤はそう言ったが、春海がそのとき深く感銘を受けたのはまったく逆のことだった。人には持って生まれた寿命がある。だが、だからといって何かを始めるのに遅いということはない。その証拠が、建部であり伊藤だった。体力的にも精神的にも衰えてくる年齢にあって、少年のような好奇心を抱き続け、挑む姿勢を棄てない。伊藤が天測の術理を修得したのは四十を過ぎてからだという。自分はまだ二十三ではないか。何もかもこれからではないか。そんな幸福感を味わう春海に、
「どうです。面白いでしょ」
 伊藤がいつもの丁寧で柔和な笑顔を見せて言った。城中でありとあらゆる者の横柄な態度に慣れた春海には、それだけで改めて新鮮さを感じさせられる笑顔である。
「はい。とても面白うございます」
 元気良く答えたところを、
「頼みましたよ」
 ぽん、ときわめて自然な所作で肩を叩かれた。なんだか無性に嬉しくなった。
「頼まれました」
 つい反射的に笑顔で応じていた。やがてそれが本当に、春海にとって空前絶後の大事業になるなどという予感は、このときはかけらも抱かなかった。だが自分はこれからなのだ、という思いを繰り返し味わい、喜びの念に陶然となるばかりであった。

P.292
 それが判明してなお、春海の中ではまだ余裕にも似た気持ちが残っていた。まさか自分のような者にそれほどの事業を率先して行わせるはずがない。精神の逃げ場と言っていいそれを素直に吐露するように尋ねた。
「ふ……不肖の身なれど、粉骨砕身の努力をさせて頂きます。それで……どなたのもとで尽力すればよろしゅうございましょうか?」
 正之の目が僅かに見開かれた。春海の勘違いでなければ、正之が初めて見せた、きょとんとした顔だった。それからみるみる笑顔になり、ゆっくりとかぶりを振った。
「そなたが総大将だ、安井算哲。そなたのもとで人が尽力するのだ」
 今度は春海の目がまん丸に見開かれた。精神の逃げ場がその時点で完全に消滅した。
 たちまち息が詰まり、先ほど感じた血潮が一瞬で恐怖に凍りついた。
「い……い、いかなる思し召しで……、そ、そのような身に余るお役目を……」
「みながみな、同じ名を口にした。改暦の儀……推挙するならば、安井算哲を、とな」
「み、みな……? と申しますと……」
「水戸光国」
 正之が言った。ぱっと春海の脳裏にあの剛毅な顔が浮かんだ。
「山崎闇斎」
 春海の幼いときからの師であり、正之の侍儒だ。これまた春海の脳裏で豪快に笑っていた。
「建部昌明、伊藤重孝」
 その二人の名が挙げられた途端、ふいにまったく予期せぬものが込み上げてきた。
 “精進せよ、精進せよ”
 建部の楽しげな声がよみがえり、
 “頼みましたよ”
 今まさに伊藤に優しく肩を叩かれた気がした。
 おそらく建部は事業から外れてのち、伊藤は事業成就の後、それぞれ春海を推挙していたのだ。そう悟った途端、視界がぼうと霞み、目に純然たる歓びの涙がにじんだ。
「安藤有益。そなたも知る通り、我が藩きっての算術家だ」
 春海はうなずいた。声が出なかった。まさか安藤までもが。堪えきれず肩が震えた。
「酒井“雅楽頭”忠清。あの大老殿、そもそも暦術に興味など持ち合わせておらぬが、そなたには、いささか感ずるところがあるようでな。星のことはとんと分からぬが、算哲という者の熱心さは、信ずるに値する、と言うておった」
「し、しかし、わ……私は……この通り、若輩者でございます……」
「若さも条件だ。何年かかるかわからぬ事業であるゆえ、な」
 途端に、あの酒井の、
 “生涯かかるか”
 という言葉が、何年ぶりかに、胸に心地好く響いた。その瞬間ようやく心が定まった。たとえようもない使命感に身が熱くなった。
「まことに……私で、よろしいのですか」
 すっと正之の背が伸びた。
「安井算哲よ。天を相手に、真剣勝負を見せてもらう」
 からん、ころん。
 ふいに幻の音が耳の奥で響いた。咄嗟にそれが何であるか分からなかった。分からないまま、強烈な幸福感に満たされていた。いつか見た絵馬の群の記憶がよぎった。が、そうとはっきり認識する間もなく、春海は、たまらず衝動的に座を一歩下がり、平伏し、
「必至!」
 叫ぶように応えた。反射的に口から出たそれが、碁の語彙でもあると遅れて気づいた。
 正之が愉快そうに笑った。
「頼もしい限りだ、安井算哲」
 それが父の名であるという意識が、初めて春海の心から綺麗に消えていた。



天地明察

天地明察

  • 作者: 冲方 丁
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2009/12/01
  • メディア: 単行本

江戸の天文学者 星空を翔ける ~‐幕府天文方、渋川春海から伊能忠敬まで‐ (知りたい!サイエンス)

江戸の天文学者 星空を翔ける ~‐幕府天文方、渋川春海から伊能忠敬まで‐ (知りたい!サイエンス)

  • 作者: 中村 士
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2008/06/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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『夢曳き船』(山本一力,徳間書店,2010.01.31) [本]

 大店の材木商・伊勢杉は、向島の料亭・吉野の新築普請のため熊野杉千本を手配したが、江戸への回送の途中、時化に遭い700本を失う。他の火事の影響もあり、金策の苦労から自殺も考えた伊勢杉だが、箱崎町貸し元・あやめの恒吉の力を借り、一世一代の賭けにでる……、というのが大筋なのだが、全体のうち、約4分の3は、江戸への材木の回送への立会人に選ばれた代貸の暁朗の活躍の物語。
 読んでいて面白いのだが、山本一力氏お得意の渡世人礼賛が目につき、少し嫌になるのが難点。
 どうして、こう、渡世人礼賛作品が多いのか……。現代ほどではないにせよ、江戸時代においても、反社会的勢力だったのは間違いないのだが。
 まっとうな暮らしを営んでいる江戸の庶民の哀感や人間模様を綴っていく作品を期待しているだけに残念。
 でも、きっと、また新作が出たら、読んでしまうんだろうな。


夢曳き船

夢曳き船

  • 作者: 山本一力
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2010/01/30
  • メディア: 単行本



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『23分間の奇跡』(ジェームズ・クラベル,集英社,1983.09.25)    [本]

原題は“The Children's Story... - but not just for children”。

舞台は、いつかの時代の、どこかの国の小学校。
9時ちょうどに入ってきた新しい先生が9時23分には、生徒たちに新しい価値観を植え付ける。それも、極めて平和的に。
そのあまりの静かな変化が恐かった。

以下、一部、引用。

 先生は、みんながキャンディを、たべおわるのを待っていた。ここまでのやりかたは、すべて教えられたとおりに運んだまでのことだ。しかし、これで子どもたちはあたしのいうことをよくきくようになり、りっぱな市民として育っていくだろうと思った。先生は窓から外を見た。日が、さんさんとあたっている。広い、すばらしい土地だ。この土地を胸いっぱい吸いこむのだ。でも先生の胸が熱くなってきたのは、さんさんとあたる太陽のせいではなかった。先生は、この学校の、いや、この土地の、すべての子どもたち、すべての男や女たちが、おなじ信念をもって、おなじような手順のもとに、教育されていくであろうことを思うと、胸が熱くなるのだ。その手順は、年齢のグループによっても、要求のどあいによってもちがうけれど。
 先生は、うでどけいを、ちらと見た。
 九時二十三ぷんだった。


23分間の奇跡 (集英社文庫)

23分間の奇跡 (集英社文庫)

  • 作者: ジェームズ・クラベル
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1988/07/20
  • メディア: 文庫



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『怖い絵』(中野京子,朝日出版社,2007.07.25)   [本]

 表紙の絵(ラ・トゥールの『いかさま師』)が印象的な装丁。

「怖い絵」として取り上げられているのは、計20作品。
 ただ、見た目の印象で「怖い」絵は、ゴヤの『我が子を喰らうサトゥルヌス』やベーコンの『ベラスケス<教皇インノケンティウス十世像>による習作』など、数点に限られる。
 本書が追求する「怖さ」は、もっと奥深いところにある。

 個人的に怖いと感じたのは、ドガの『エトワール、または舞台の踊り子』やダヴィッドの『マリー・アントワネット最後の肖像』。
 特に、ドガの作品の場合、スポットライトを浴びて踊るバレリーナ(エトワール)が落ち着いた色調で描かれているだけなので、どこにも不気味さも狂気も感じない。そのため、怖さは全く感じない。実際、私がオルセー美術館で実物を見たときの印象も「きれいな絵だな」というものでしかなかった。
 作者は、そこからさらに奥に掘り下げ、現代の我々の眼には映らない、はっきりと見えていながら認識できていない数々の存在を暴いていく。

 このドガの『エトワール、または舞台の踊り子』の場合、それはドガの時代、劇場、とりわけオペラやバレエを上演するオペラ座が堕落していたことに由来している。現代より社交場としての機能が遙かに重視されていたこの時代、当時の批評家の言葉を借りれば「オペラ座は上流階級の男たちのための娼館」となっていたのだ。
 そして、その娼館に常駐している娼婦が踊り子だった、という歴史的な事実が提示されると、この美しい絵も美しいだけの絵ではないことがわかってくる。
 この絵の場合、背後の書割の陰に佇んでいる夜会服を着た紳士が、このエトワールのパトロンであり、当時の人たちにとっては一目瞭然かつ全く普通のことだったため、この絵に描き込まれているのである。
 以下、一部引用。
 ──スポットライトを浴びて華やかに舞うエトワール。彼女はほんとうにスターとしての素質があるのか、それとも単に有力なパトロンの後押しで、今日のこの座を得たのだろうか? それは永遠にわからない。
 けれど確かなのは、この少女が社会から軽蔑されながらも出世の階段をしゃにむに上って、とにもかくにもここまできたということ。彼女を金で買った男が、背後から当然のように見ているということ。そしてそのような現実に深く関心を持たない画家が、全く批判精神のない、だが一幅の美しい絵に仕上げたということ。それがとても怖いのである。

 一旦、この見えていながら見えていなかった事実に気がついてしまうと、もうこの名画を以前と同じように「きれいな絵」とは思えない。
 これは、人として幸いなのか、不幸なのか……?

 いずれにせよ、斬新な切り口の名著。続編も読んでみよう。


怖い絵

怖い絵

  • 作者: 中野 京子
  • 出版社/メーカー: 朝日出版社
  • 発売日: 2007/07/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

怖い絵2

怖い絵2

  • 作者: 中野 京子
  • 出版社/メーカー: 朝日出版社
  • 発売日: 2008/04/05
  • メディア: 単行本

怖い絵3

怖い絵3

  • 作者: 中野 京子
  • 出版社/メーカー: 朝日出版社
  • 発売日: 2009/05/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

探究この世界 2010年2-3月 (NHK知る楽/月)

探究この世界 2010年2-3月 (NHK知る楽/月)

  • 作者: 中野 京子
  • 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
  • 発売日: 2010/01/25
  • メディア: ムック



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『まねき通り十二景』(山本一力,中央公論新社,2009.12.20)  [本]

 読売新聞のウェブサイトに2008年1月から2009年1月までの12か月に亘って連載された作品のためか、全12話のつながりはあるものの独立した短編から構成されていて、いつにも増して読みやすい。
 天保年間の深川の冬木町という町を舞台に、庶民の哀感を綴っていく。
 ただ、惜しむらくは、作品内容があまりにも平均点レベル。可もなく不可もなし。残念。


まねき通り十二景

まねき通り十二景

  • 作者: 山本 一力
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2009/12/18
  • メディア: 単行本



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『神々の捏造』(ニナ・バーリー,東京書籍,2009.08.03)  [本]

 副題は、イエスの弟をめぐる「世紀の事件」。
 原題は、“Unholy Business”。
 原題の方が、本書の内容を直截に伝えている。

 聖地エルサレムを舞台に、聖書時代の遺物の偽造事件に迫るこのドキュメンタリーだが、全てが事実、ということが、にわかには信じられないほど入り組んだ展開。
 2002年にイエス・キリストの弟ヤコブのものであると公表された「ヤコブ、ヨセフの息子、イエスの兄弟」と記された骨箱が、当時、キリストの実在を示す史上初の物的証拠として話題になったことは覚えていたが、全くの贋物だとは、本書を読むまで知らなかった。

 偽造犯として起訴されたオデット・ゴランという人物の背後に、どのような関係が隠されているのかはさておき、科学者をも含めて、人は「信じたいものを信じる」のだなぁ、と再認識させられた。

 4月10日からイタリアのトリノで10年ぶりに公開されている「トリノの聖骸布」 (Shroud of Turin) といい、聖遺物の真贋がはっきりしないのは、人がその実在を信じたいからなのだろう、きっと。



神々の捏造 イエスの弟をめぐる「世紀の事件」

神々の捏造 イエスの弟をめぐる「世紀の事件」

  • 作者: ニナ バーリー
  • 出版社/メーカー: 東京書籍
  • 発売日: 2009/07/25
  • メディア: 単行本

イエスの弟―ヤコブの骨箱発見をめぐって

イエスの弟―ヤコブの骨箱発見をめぐって

  • 作者: ハーシェル シャンクス
  • 出版社/メーカー: 松柏社
  • 発売日: 2004/07
  • メディア: 単行本



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『その科学が成功を決める』(リチャード・ワイズマン,文藝春秋,2010.01.30)  [本]

 原題は、“59 SECONDS”。
 59秒でできる心理学的な根拠のある自己啓発の方法、というのが、原題の意味。

 本書では、科学的な検証により、巷にあふれる自己啓発本の数々のメソッドの真偽が実証されていく。
 印象に残ったのは、イメージトレーニングは逆効果で、プラス思考の実践者は、ダイエットにも恋愛成就にも失敗する割合が高かった、という調査結果。
 う~む。考えさせられる。

 巻末に、著者がソフィーという友人に「科学的に裏付けがあって、しかも一分以内にできる自己啓発の方法はないの?」という質問に対する回答として、59秒でできる10のことがらが列挙されている。
 以下、抜粋。
 ……取り組みやすいのは、どれだろう?
  1. 感謝の気持ちを育てる
  2.  人生の中で自分が感謝することを三つ書き出す。あるいはこの一週間のあいだにとくにうまくいったことがらを三つ書き出す。すると一月ほどあいだ、幸福感が高まる。そしてそれまでより将来に対して楽観的になり、健康状態も良くなる。

  3. 財布に赤ちゃんの写真を入れる
  4.  財布に赤ちゃんの写真を入れておくと、なくしたとき戻ってくる割合が3割増える。赤ちゃんの大きな目とまるくて小さな鼻が、人の奥底に眠る進化のメカニズムに訴えて親切心を目覚めさせ、持ち主に返そうという気持ちが高まるのだ。

  5. キッチンに鏡を置く
  6.  自分が食べる食べ物を選ぶとき、目の前に鏡があると32%の人が健康によくない食品を避けたという実験結果がある。鏡に映る自分の姿を見ると、体形が気になり始め、身体にいい食品を選ぶようになるのだ。

  7. 職場に鉢植えを置く
  8.  職場に植物を置くと、男性社員の発想力が15%高まり、女性社員は問題に対してそれまでより独創的な解決法を考え出せるようになる。植物があるとストレスが減り、気分がよくなって創造力が高まる。

  9. 二の腕に軽くふれる
  10.  人の二の腕に軽く触れると、頼みを聞いてもらいやすくなる。人は誰かに触られると、無意識に相手を上位の存在として受け止めるからだ。デートの研究によると、二の腕に触れるとナイトクラブで相手がダンスの誘いに応じる率が2割増え、通りで知らない人に電話番号を教える確率が1割上がった。

  11. パートナーとの関係について本音を書き出す
  12.  パートナーと毎週数分ずつ、自分たちの関係をどう感じどう思っているか、おたがいに本音を書き出すと、関係が長続きする率が2割増える。このような「感情にあふれたメモ」には、たがいにプラスの言葉で話せる効果があり、より健全でしあわせな関係が続く。

  13. 嘘を見抜くときは目を閉じ、相手の言葉に耳を傾ける
  14.  相手の嘘を見破るヒントは、その言葉づかいに隠れている。人は嘘を話すとき「うーん」や「えー」などの言葉が多くなり、自分を差す言葉(「私に」「私が」「私の」など)を使わなくなる。そして電話よりeメールを使う方が、嘘を伝える率が2割減る。メールでは記録が残るため、あとで自分に跳ね返ってくる可能性が高いからだ。

  15. 子供をほめるときは、才能ではなく努力をほめる
  16.  子どもの才能より努力をほめると(「よくやったわ、ずいぶんがんばったのね」など)、実際の結果がどうであれ子どもの励みになり、失敗を恐れることがなくなる。

  17. 成功した自分ではなく、前進する自分をイメージする
  18.  夢が現実になったときの自分を思い描くかわりに、目標達成に向けて一歩一歩前進する自分を思い描く方が、はるかに成功する率が高い。とくに効果的なのは第三者の立場で眺めること。客観的に自分を眺める人は、主観的に自分を眺める人にくらべて成功する率が2割高い。

  19. 自分が遺せるものについて考える
  20.  親友が自分の葬式で弔辞を述べる場面を、少しのあいだ想像してみる。自分は個人として、あるいは仕事人としてなにを遺せるだろう。それを考えると自分の長期的な目標が明確になり、現在その目標に向けてどこまで進んでいるかを自覚することができる。


その科学が成功を決める

その科学が成功を決める

  • 作者: リチャード・ワイズマン
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/01/26
  • メディア: 単行本


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『ルポ 日本の縮図に住んでみる』(日本経済新聞社編,日本経済新聞社,2009.12.08) [本]

「日本列島のある場所に1か月ほど住んでみたら、日常の取材とは違うなにかが見えてくるだろうか?」という問題意識を持って、日本経済新聞社の50、60代のシニア記者が各地に定住して書かれたルポ。

 目次は次のとおり。
  1. 最西端の孤島-与那国に住んでみる
  2. 変わりゆく労働者の街-横浜・寿町に住んでみる
  3. 奈良・吉野町-若者自立寮に住んでみる
  4. 田舎暮らしを体験-北海道浦河町に住んでみる
  5. 日本ブラジル共存の街-豊田・保見団地に住んでみる
  6. 岡山・邑久光明園-ハンセン病療養所に住んでみる

 特に印象的だったのは、第5章と第6章。
 20年近い交流の歴史を支えてきた自治区長ですら「日本人とブラジル人は共生できない」と断言する現実。
病気は治癒し、患者はほとんどいないにも関わらず、全国13か所の国立ハンセン病療養所に2,600人近い入所者が残らざるを得ない現実。
 双方の救いのなさに、ずっしりとした重たさを感じた。



ルポ 日本の縮図に住んでみる

ルポ 日本の縮図に住んでみる

  • 作者: 日本経済新聞社
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2009/12/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


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『それからはスープのことばかり考えて暮らした』(吉田篤弘,暮らしの手帖社,2006.08.16)  [本]

この著者の作品を読むのは、これが初めて。
「暮らしの手帖」に連載されていただけあり、和やかな穏やかな雰囲気。
ある街のサンドイッチ屋さんを舞台に話は進み、これといった大きな事件は起きない。

でも、おもしろい。独特の空気感がある作品だった。
癒される、というのは通俗すぎて好きな表現ではないが、ほのぼのとした読後感が味わえる。
しばらく、ちょっと重点的にこの作家の作品を読んでみよう。

最後に、巻末の「名なしのスープの作り方」から引用。
  • 期待をしないこと。
  • どんなスープが出来上がるかは鍋しか知らない。
  • 鍋は偉い。尊敬の念をこめて洗い磨く。が、期待はほどほどに。
  • 磨いた鍋は空のまましばらく置く。すぐにつくり始めない。我慢をする。
  • 空の鍋に何か転がり込んでこないものかと、ほどほどの期待をする。
  • しかし、すべては鍋に任せる。すると、鍋がつくってくれる。
  • 冷蔵庫を覗き、たまたまそのときあったものを鍋に放り込む。
  • 何でもいいが、好物のじゃがいもは入れておきたい。
  • もちろん、じゃがいもでなくてもいい。これは外せないというものを何かひとつ。
  • 鍋に水を入れ、火をつけると、そのうち湯気がたつ。湯気もまた尊い。
  • 換気を忘れないこと。窓をあけて、ついでに外の様子を見る。
  • 晴れていようが、曇っていようが、雨だろうが、スープはどんな空にも合う。
  • それも偉い。
  • やがて、じゃがいもがくずれてとける。
  • じゃがいも以外の諸君も、そのうちとけ始める。
  • とけて、彼我の区別がつかなくなったら、それで完成。
  • 本当は完成などないが、まぁ、いいや。
  • 熱いうちに食す。
  • そして、冷めないうちに近所の誰それに。
  • あるいは、思い出される人たちに。面倒なら、思い出すだけでもいい。
  • これを、スープの冷めない距離という。
  • この距離を保つのが、なかなか難しい。
  • その訓練のためにスープをつくる──というのはタテマエ。
  • ここに書いたことはすべて忘れ、たたひとこと念じればいい。
  • とにかく、おいしい!


それからはスープのことばかり考えて暮らした

それからはスープのことばかり考えて暮らした

  • 作者: 吉田 篤弘
  • 出版社/メーカー: 暮しの手帖社
  • 発売日: 2006/08
  • メディア: 単行本

それからはスープのことばかり考えて暮らした (中公文庫)

それからはスープのことばかり考えて暮らした (中公文庫)

  • 作者: 吉田 篤弘
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2009/09
  • メディア: 文庫



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『ブラック・スワン』(ナシーム・ニコラス・タレブ,ダイヤモンド社,2009.06.18) [本]

不確実性とリスクの本質、という副題の添えられた本書だが、作者のナシーム・ニコラス・タレブ (Nassim Nicholas Taleb) は「レバノンでギリシャ正教の一家に生まれた、文芸評論家、実証主義者にして、非常のデリバティブ・トレーダー」とのこと。

ブックカバーの袖には、次のような解説が……。
ブラック・スワン(黒い白鳥)とは、まずありえない事象のことであり、次の三つの特徴を持つ。
予測できないこと、非常に強い衝撃を与えること、そして、いったん起こってしまうと、いかにもそれらしい説明がでっち上げられ、実際よりも偶然には見えなくなったり、あらかじめわかっていたように思えたりすることだ。
Googleの驚くべき成功も、9・11も「黒い白鳥」である。
宗教の台頭から私たちの日常生活まで、ほとんどすべての背後には「黒い白鳥」が潜んでいる。
だが、実際に起こるまで「黒い白鳥」という現象に私たちが気づかないのはなぜだろうか?
その謎を解き明かしてくれる本書を読めば、世界の見方が変わるだろう、

正直、通読してみても、私にはよくわからなかった。
私の理解を超えた難しさなのか、それとも、作者(もしくは翻訳者)の書き方が悪いのか……?

とはいえ、私なりに考えた結果、作者の主張は、
「私が今ここに生きていることは、確率の低い事象がいくつも重なった結果だ。でも、私はそのことをよく忘れる」 ということと、
ローマの弁舌家であるキケロが語ったという、
「メロスのディアゴラスは神を信じない人だった。彼は神を信じる人たちが祈りをささげ、その後、船の遭難に出くわして生き延びた様子を描いた石版を見せられた。見せた人が言いたかったのは、神に祈れば難破しても生き延びられるということだった。ディアゴラスはこう尋ねた。『それで、祈って溺れ死んだ連中の絵はどこだ?』」
という話、つまり、溺れた信者は死んでしまったので、海の底からでは、自分の経験を吹聴するのは不可能であり、そのため、溺れなかった信者(自分の経験を吹聴できるもの)が語るバイアスがかかった事実を奇跡だと信じそうになる、
ということに集約されるのかもしれない。

まあ、しばらくして、もう一度読んでみよう。
そうすれば、新しい理解があるかもしれない。



ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質

ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質

  • 作者: ナシーム・ニコラス・タレブ
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2009/06/19
  • メディア: ハードカバー

ブラック・スワン[下]―不確実性とリスクの本質

ブラック・スワン[下]―不確実性とリスクの本質

  • 作者: ナシーム・ニコラス・タレブ
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2009/06/19
  • メディア: ハードカバー

まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか

まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか

  • 作者: ナシーム・ニコラス・タレブ
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2008/02/01
  • メディア: 単行本



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『調理場という戦場』(斉須政雄,朝日出版社,2002.06.20) [本]

「コート・ドール」斉須政雄の仕事論、というのが副題。

「コート・ドール」というお店については何も知らなかったのだが、調べてみると三田にある高級フランス料理店とのことだった。
 ミシュラン・ガイドブックに載っていないのが不思議、というほど高名で、味にも定評のあるお店らしい。
 当然だが、お値段も超一流。残念ながら、そうそう気軽に行けるお値段ではない。
 だが、本書の中で斉須氏が語る哲学には魅せられた。
 以下、引用。


 フランスに行く前にぼくがいた日本の調理場には「みんなと仲良く波風を立てない」という雰囲気が充満していたのですが、フランスに渡って「『みんな仲良く』なんて、ありえない」と気づきました。

 自分の常識を通すためには、さまざまな軋轢を打破して、時には争いごとだって経験しないと、やりたいことをやれないじゃないですか。

 ただただ仲良くしたいなんて思っているヤツは、みんなに体よく利用されて終わってしまいます。

 相手に不快感を与えることを怖がったり、職場でのつきあいがうまくいくことだけを願って人との友好関係を壊せないような人は、結局何にも踏み込めない無能な人です。

 日本ではぼくは割と軋轢を起こしてしまうほうで、生意気だと言われたけれども、相互理解のためには多少の軋轢があってもいい。というか、むしろ必要な作業であるとさえ思った。

 調理場でさっきまでほんとうに大声でケンカをやっている同僚ふたりが、五分もしたらカフェで白ワインかなんかを飲んで楽しく話している。そんな姿を見ているうちにぼくも「不満があるのに黙っているのは罪だ」と思うようになりました。最初はその切り替えが理解できなかったけれども。



 ぼくは世事に長けていないから、あんまり効率のいい生き方をしていると、すり切れていってしまうような気がするんです。ですから、ゆっくりと遠回りでもいいけど、一歩ずつ行くことを選びました。これはベルナールのやり方です。

「これは、夢のような幸運だ」と思っているうちは、その幸運を享受できるだけの力がまだ本人に備わっていない頃だと思うんですよ。幸運が転がってきた時に「あぁ、来た」と平常心で拾える時には、その幸運を摑める程度の実力が宿っていると言えるのではないでしょうか。ベルナールには、天性の資質が備わっていたとしか思えない無理のない生き方を見ていました。

 見習いの頃からすれば夢のような職域に入った時にも、最初は気恥ずかしさがあったりうれしさが込みあげたりしますが、動き出すと違和感を抱いたことはありません。もう動けるようになっていて、その動きを任されるというか。

 二段跳び三段跳びの生き方ももちろんあるけれど、ぼくの場合には、「まわり道だけど、景色もいいし見るところも多い」というのがいいなぁと思ったのです。スピードレースをしている時には見えないものを楽しむ、というやり方が、個人的にはとても好きなのです。


やっぱり、いつか、この人のお店で食事をしてみたい。いつかきっと。


調理場という戦場 ほぼ日ブックス

調理場という戦場 ほぼ日ブックス

  • 作者: 斉須 政雄
  • 出版社/メーカー: 朝日出版社
  • 発売日: 2002/07/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

調理場という戦場―「コート・ドール」斉須政雄の仕事論 (幻冬舎文庫)

調理場という戦場―「コート・ドール」斉須政雄の仕事論 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 斉須 政雄
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2006/04
  • メディア: 文庫


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『筆跡鑑定ハンドブック』(魚住和晃,三省堂,2007.07.15) [本]

「筆跡鑑定」のすべてがわかる小辞典、というのが副題。
先日読んだ『一澤信三郎帆布物語』の筆跡鑑定に関する部分で紹介されていたので、興味を持って読んでみた。
意外というか、驚いたのは、筆跡鑑定というものの信頼性は私の考えているレベルよりかなり低い、ということ。
まず、筆跡鑑定士という公的な資格はない、というのは初耳。
一部、本書から引用。

 では、こうした裁判で登場する筆跡鑑定士とはどんな人で、どんな資格のもとに存立するのかであるが、これには全く法的な規定がないのである。鑑定能力を測る国家試験に類するような認定制度はなく、すべてが自称の筆跡鑑定士なのである。筆跡鑑定法に関するセオリーなどはなく、鑑定も鑑定士独自の方法でなされることになる。
 さらにやっかいなことは、これらの鑑定士の多くが、前述の科学捜査研究所出身者によって占められていることである。つまり、警察を定年退職したあとに、第二の人生としてこの職を開業しているのである。彼らは筆跡鑑定の技量水準の現状と弱点、さらには論法の手の内などを熟知している。職業として依頼を受け、対価を得て鑑定するのだから、依頼者の求めに準じた結論を導くに決まっている。彼らの職業はそうしなくては成り立たないのであり、弁護士の存在との共通性を考えるならば、彼らのありかたそのものを司法の場で責めることはできないだろう。

本書は、上記のような現状に対して、筆跡鑑定の基準となる手順と方法を提言したもの、とのことだが、一日も早く、少なくとも今より公正な筆跡鑑定法が確立されることを祈りたい。


筆跡鑑定ハンドブック

筆跡鑑定ハンドブック

  • 作者: 魚住 和晃
  • 出版社/メーカー: 三省堂
  • 発売日: 2007/06
  • メディア: 単行本


『俺は、中小企業のおやじ』(鈴木修,日本経済新聞出版社,2009.02.24) [本]

 インドに行った際、街にあふれるスズキ車(特に、スイフト)の勢いを見て、ずっと気になっていたスズキ自動車の会長兼社長の著書。

 自伝というか、経営哲学本というか、ビジネス書というか……?

 とにかく、圧倒されるのは、売上高が3兆円あろうと、(当時は)天下のGMと提携しようと、『スズキは中小企業である』とする、鈴木会長の徹底した意識のあり方。
 中小企業であるということを前提とした企業戦略から、どんなに小さな市場でも1番になることを重視し、当時は、世界中のどこの自動車会社もまだ進出していなかったインドに拠点を築き、圧倒的なシェアを獲り、現在の地位を確立した手腕には、驚きというより感動を覚えざるを得ない。

 リコール問題でトヨタさえ揺れる今、日本でももっとスズキの車を見直すべきなのかもしれない、と思う今日この頃。

俺は、中小企業のおやじ

俺は、中小企業のおやじ

  • 作者: 鈴木 修
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2009/02/24
  • メディア: 単行本



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『一澤信三郎帆布物語』(菅聖子,朝日新聞出版,2009.10.30) [本]

あの京都の老舗「一澤帆布」を巡る一連の顛末を、当事者の一方(一澤信三郎氏夫妻)の視点からまとめた新書。

マスコミ等でかなり取り上げられていましたので、ご存じの方も多いと思いますが、裁判等の経緯については、こちらが詳しいです。
Wikipedia - 一澤帆布工業

一度は、代表権が長男(信太郎氏)のものとなったのですが、三男(信三郎氏)の妻による訴訟の結果、長男(信太郎氏)の提出した(一度は「無効と言える十分な証拠がない」と認められた)方の遺言状が偽造とされ、代表権が三男側(信三郎氏夫妻)の手に戻った、という、複雑な経緯をもつ相続裁判です。
その上、長男(信太郎氏)が雇用した従業員による訴訟は、まだ継続中です。

長男(信太郎氏)が代表者だった間に雇用された従業員の方々が作ったサイトはこちら。
一澤帆布労働組合
http://www12.ocn.ne.jp/~godoseni/ichizawahanpu.htm

信太郎氏側への取材は行われていない(できなかった?)ため、一方の視点からの記述となっていて、正直、読者としての不満は残ります。
まだ、完全には係争が終わっていない事件について、ノンフィクションやドキュメンタリーの形式で書かれるなら、対立する両者の見解を記述すべきですが、その点で本書の内容は一種のプロパガンダに過ぎず、明らかに公平性を欠いています。
せめて、四男(喜久夫)の方の見解だけでも知りたかった……。なお、次男の方は、生まれてすぐに亡くなられたそうです。

とはいえ、信三郎帆布の製品の作られ方や修理に対する考え方については、丁寧な取材がされていて、製品のよさが文章から伝わってきます。
なにより、元々の従業員(職人)の皆さんが、誰一人欠けることなく(と、本書には記されている)信太郎夫妻についていった、というエピソードは劇的で、「信三郎と共に! We Shall Return」と書かれた帆布の横断幕を前にして撮られた写真には、感動しました。

今度、京都を訪れたときには、茶筒の「開化堂」とともに、必ず立ち寄ってみたいお店です。

2010.03.14 追記
その後、実際に一澤信三郎帆布の店舗にも行ってきました。
そのときの記事は、こちら

一澤信三郎帆布
〒605-0017
京都市東山区東大路通古門前北
知恩院前交差点近く 東大路通西側
Tel. 075-541-0436
http://www.ichizawashinzaburohanpu.co.jp/


一澤信三郎帆布物語 (朝日新書)

一澤信三郎帆布物語 (朝日新書)

  • 作者: 菅 聖子
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2009/10/13
  • メディア: 単行本



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『知の技法 出世の作法』第135回(佐藤優,2010.02.13,週刊東洋経済) [本]

『週刊東洋経済』に連載されているコラムは、基本的に興味深いが、その中でも佐藤優氏(作家・元外務省主任分析官)の『知の技法 出世の作法』は、特に参考になる記述が多い。
今週号の「学習レベル向上には古い参考書が役に立つ」では、先週に引き続き、語学学習について、その経験を語り、参考書として、次の二冊を掲げている。

和文英訳の修業 4訂新版

和文英訳の修業 4訂新版

  • 作者: 佐々木 高政
  • 出版社/メーカー: 文建書房
  • 発売日: 1981/01
  • メディア: 単行本

英文をいかに読むか

英文をいかに読むか

  • 作者: 朱牟田 夏雄
  • 出版社/メーカー: 文建書房
  • 発売日: 1959/01
  • メディア: 単行本


『英文をいかに読むか』の方は、「机に向かいノートを取らなくても、通勤途中の電車や、ベッドに横になって読み進めることができる」とのことなので、とりあえず挑戦してみます。
結果は、また、このブログでご報告します。

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『かばんはハンカチの上に置きなさい』(川田修,ダイヤモンド社,2009.08.27) [本]

副題は「トップ営業がやっている小さなルール」。

筆者の川田氏は、株式会社リクルートで部署最優秀営業マン賞を数回、また全社年間最優秀営業マン賞を受賞。プルデンシャル生命保険株式会社に入社後は、営業職の最高峰であるエグゼクティブ・ライフプランナーに昇格。その年の年間営業成績トップとなり、社長杯を受賞、というまさに「トップ営業」。

目次には、そんな川田氏の哲学のエッセンスが凝縮されている。

第1章 相手目線で、ちょっと違うことをやる
第2章 「ちょっと違うこと」から気づく、大事なこと
第3章 営業マン・ウーマンは弱いものである-自分の弱さを認めるということ
第4章 そんな私も新人でした。営業現場で一から学ぶこと
第5章 営業とは、お客様と物語を作る仕事である

本書の題名「かばんはハンカチの上に置きなさい」も、その「ちょっと違うこと」のひとつ。
ハンカチの上にかばんを置くこと以外にも、名刺の裏面の活用方法など、学ぶことの多い本だった。


かばんはハンカチの上に置きなさい―トップ営業がやっている小さなルール

かばんはハンカチの上に置きなさい―トップ営業がやっている小さなルール

  • 作者: 川田 修
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2009/08/28
  • メディア: 単行本



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『ぼくたちが聖書について知りたかったこと』(池澤夏樹,小学館,2009.11.02) [本]

2009年に読んだ本の中で、私の中の評価では最高の名著。
信仰は魂に属するが、宗教は知識である」というまえがきから始まるこの本は、作家・池澤夏樹と碩学・秋吉輝雄との対談形式を取った、一種の啓蒙書。

この本の成り立ちは、あとがきで明らかにされているが、池澤夏樹氏にとって、秋吉輝雄氏は池沢氏の父親の母方の従兄弟、という縁戚関係にあたるとのこと。
そのためか、素人代表(というには、知識の豊かさに圧倒されるが……)としての池沢氏が、専門家としての秋吉氏に次々と質問するという形式の対談そのものが、やわらかく親しみやすい雰囲気に包まれている。

本書の構成は、次のとおり。


第一部 聖書とは何か?
第二部 ユダヤ人とは何者か?
第三部 聖書と現代社会



中でも、第三部で語られる「『おとめマリア』か『処女マリア』か?」「アダムの以前に人はいたのか?」は、雑学的な読み物としても興味深い。

ただ、次の引用部分からも感じたことだが、池澤氏と秋吉氏にとって「『神』は存在する」ということは、揺るぎない大前提となっている。
そのため、キリスト教への興味が、知識や歴史的な関心の範囲に留まっている私にとっては、少し違和感があったのは事実。


池澤 ヘブライ語からギリシャ語になるときにパルテノス、処女になったというのは、それも全知の神は承知していたのではないでしょうか。
秋吉 たとえ、神言とはいえ、ヘブライ語という一言語の表し得る限界性ということを考えれば、新しい言語、ギリシャ語を通しての開示と言わざるをえないですね。神の子イエスの受難と死にしても、ヘブライ語の制約を超えると思います。



とはいえ、数あるキリスト教の解説書の中で、この本ほど、私の「聖書について知りたかったこと」を明快に解き明かしてくれた本は初めて。
再読、再々読の価値がある名著。おすすめです。


ぼくたちが聖書について知りたかったこと

ぼくたちが聖書について知りたかったこと

  • 作者: 池澤 夏樹
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2009/10/28
  • メディア: 単行本




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『神去なあなあ日常』(三浦しをん,徳間書店,2009.05.31) [本]

横浜生まれ、横浜育ちの主人公・平野勇気が、高校卒業後、三重県の山奥にある神去村で、研修生として林業に従事する、というのが物語の大筋。
目次は、次のとおり。

一章 ヨキという男
二章 神去の神さま
三章 夏は情熱
四章 燃える山
終章 神去なあなあ日常

物語は、主人公・勇気が神去村での一年を振り返り、気の向くままに記録していく形の一人称で語られる。
山奥の村に放り込まれ、チェーンソーの使い方を教えられ、親切とまではいえないが頼れる先輩ヨキや仕事仲間の面々に鍛えられながら、神去村の四季が描かれる。
また、林業の難しさというか、気の長さが必要なことが語られていく。
物語後半の軸となる、勇気と小学校の先生・直紀との淡い恋模様も読んでいて楽しかった。
それにしても、繁ばあちゃんの台詞「ええとこまで持ちこんだな。あと一歩や。競争相手はおらんのや、じっくり攻めるねぃな。若い男女が一緒におれば、おのずとええ仲になる」には、思わずくすっとしてしまった。


神去なあなあ日常

神去なあなあ日常

  • 作者: 三浦 しをん
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2009/05
  • メディア: 単行本



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『節約の王道』(林望,日本経済新聞出版社,2009.10.08) [本]

ロングセラーになる勢い、というインタビューを『週刊東洋経済』で読んだので、買って読んでみた。
まず、巻頭に掲げられている橘曙覧(たちばなのあけみ)の『独楽吟』に、心打たれた。
以下、引用。

たのしみは妻子(めこ)むつまじくうちつどひ頭(かしら)ならべて物をくふ時
たのしみは空暖かにうち晴れし春秋(はるあき)の日に出(い)でありく時
たのしみはまれに魚烹(うおに)て児等(こら)皆がうましうましといひて食ふ時
たのしみは心をおかぬ友どちと笑ひかたりて腹をよるとき
たのしみは家内(やうち)五人(いつたり)五たりが風(かぜ)だにひかでありあへる時
たのしみは三人(みたり)の児(こ)どもすくすくと大きくなれる姿みる時
たのしみは小豆(あずき)の飯(いひ)の冷えたるを茶漬けてふ物になしてくふ時
たのしみは欲しかりし物銭ぶくろうちかたぶけて買ひえたるとき


橘曙覧という人物については、この本で初めて知った。
どういう人物かというと、「週刊東洋経済」のインタビューでの筆者による解説によると、明治維新になる直前になくなった福井の人、とのこと。
藩主の松平春嶽がその令名を聞いて訪ねて行き、あまりの貧乏さを見てびっくりした、という逸話を持ち、だが、書物だけはきちんと積んである中で、家族睦まじく暮らす、人間の幸せの見本のような人だったらしい。

たしかに、楽しみというか、幸せの原型とは、こういう地に足のついた喜びの積み重ねなのだと思う。
私には、遠い遠い風景だけれど。

以下、目次は次のとおり。

序章  節約は楽しい
第一章 食……節約食とはすなわち健康食である
第二章 お金の管理……万札は、崩さない
第三章 交際費……虚礼に金を費やすな
第四章 衣服と車……見栄ほど醜いものはない
第五章 旅行、趣味……金はなくとも余暇は楽しめる
第六章 教育……人生最大の投資と捉えよ
第七章 住まい……自分の軸を揺るがすな
終章  節約と人生


本の帯に大きく書かれている「金をおろすなら、34,000円に限る」というキャッチ・フレーズは、第二章に書かれている。
ATMからお金を引き出すときは、必ず33,000円とか34,000円にして、30,000円に端数をつけて引き出すことで、その端数の4,000円を使っている間は、30,000円を崩さないようにしようという意識が働き、しばらくの間、自然に節約することになる、というのが筆者の主張。
だが、個人的には、崩さなければならないときには抵抗感なく崩すので、それで自然に節約することになる、との主張には、あまり実感が持てない。

また、「節約の王道は合理主義にあり」ということで、本文中、共感できる部分も多々あるのだが、車移動を高く評価している点には強い違和感を感じた。
筆者も、自然環境への負荷という点について、車は辛いところがある、と認めているのだが、一方で、電気自動車にシフトしていけば、走行中の二酸化炭素の排出量がゼロになり、地球環境への負荷という問題は解決されるはず、と書かれている。

しかし、果たしてそうだろうか?
電気自動車の動力源となる電気を発電する際に排出される二酸化炭素の量は、ガソリン・エンジンに比べれば少ないだろうが、ゼロではない。また、電気自動車には大量のバッテリーが搭載されるが、その廃棄やリサイクルの際に生じる環境負荷のことについては触れられてすらいない。
そもそも、東京から大阪までの移動を、単純にガソリン代等の合計だけで比較し、年間維持費(車検、保険料、税金、駐車場)を全く計算に入れていないのでは、比較にすらなっていないのではないだろうか?
その上、車移動の方が移動時間が長くなることや、事故の危険、運転に由来する疲労などについても、全く考慮されていないのは、我田引水というか、牽強付会というか、学者としていかがなものか?

780円の新書だが、読後感で評価すると、巻頭の『独楽吟』から受けた感動を除いては、なんだかかなり割高に感じられてしまう一冊だった。
『イギリスはおいしい』以来、何冊も読んできたリンボウ先生の著作だけに、なんだかとても残念に思えてならない。


節約の王道(日経プレミアシリーズ)

節約の王道(日経プレミアシリーズ)

  • 作者: 林 望
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2009/10/09
  • メディア: 新書

イギリスはおいしい (文春文庫)

イギリスはおいしい (文春文庫)

  • 作者: 林 望
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1995/09
  • メディア: 文庫



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『太一×ケンタロウ 男子ごはんの本』(国分太一・ケンタロウ,角川グループパブリッシング,2009.04.20) [本]

テレビ東京系で放送されている『男子ごはん』のレシピ&トーク集。
『男子ごはん』は、正月SPで偶然目にして以来、ずっと見続けている大好きな番組。
国分太一とケンタロウが醸し出す独特のゆるい雰囲気が、日曜日のお昼前に見るのに、ちょうどいい。

本には、番組で紹介されたレシピはもちろんのこと、収録スタジオの紹介や製作スタッフの声、ケンタロウのオススメグッズ、太一×ケンタロウのスペシャル対談などが収録されていて、ムック本としても楽しめる。

個人的には、スペシャル対談で紹介されている、国分太一とケンタロウの出会いが2007年に出版された国分太一初の著書『タヒチ タイッチのリゾート気分で』で、国分太一がケンタロウと一緒に料理を作りたいと提案したこと、というエピソードが印象的だった。

そうそう、紹介されているレシピの中では、#023の「手羽元のにんにく炒め煮」が手軽に作れるわりに、とてもおいしかったです。


太一×ケンタロウ 男子ごはんの本

太一×ケンタロウ 男子ごはんの本

  • 作者: ケンタロウ
  • 出版社/メーカー: M.Co.(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2009/04/20
  • メディア: 単行本

タヒチ―タイッチのリゾート気分で

タヒチ―タイッチのリゾート気分で

  • 作者: 国分 太一
  • 出版社/メーカー: M.Co.
  • 発売日: 2007/09
  • メディア: 単行本


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『赤めだか』(立川談春,扶桑社,2008.04.20) [本]

立川談春の自叙伝。
師匠である立川談志との不思議な距離感が興味深い。
CDの「紺屋高尾」があまりにも素晴らしく、とはいえ、独演会のチケットの入手も難しい人気なので、とりあえず本を読んでみたのだが、ぜひ一度、生で落語を聞きたいものだ。

第1話 「これはやめとくか」と談志は云った。
第2話 新聞配達少年と修行のカタチ
第3話 談志の初稽古、師弟の想い
第4話 青天の霹靂、築地魚河岸修行
第5話 己の嫉妬と一門の元旦
第6話 弟子の食欲とハワイの夜
第7話 高田文夫と雪夜の牛丼
第8話 生涯一度の寿限無と5万円の大勝負
特別編その1 揺らぐ談志と弟子の罪-立川流後輩達に告ぐ
特別編その2 誰も知らない小さんと談志-小さん、米朝、ふたりの人間国宝



赤めだか

赤めだか

  • 作者: 立川 談春
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2008/04/11
  • メディア: ハードカバー

立川談春/来年3月15日

立川談春/来年3月15日

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: 夢空間
  • 発売日: 2006/03/15
  • メディア: CD



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『ジパング島発見記』(山本兼一,集英社,2009.07.10) [本]

ルイス・フロイスの記録をもとに、主に宣教師を主人公にした7篇の短編からなる連作集。
短編の表題は、次のとおり。
鉄炮をもってきた男
ホラ吹きピント
ザビエルの耳鳴り
アルメイダの悪魔祓い
フロイスのインク壺
カブラルの赤ワイン
ヴァリニャーノの思惑

山本兼一らしい手堅い語り口で、あっという間に読めてしまった。
印象的だったのは、フロイスが語り手の「フロイスのインク壺」。信長の描写が独特。


ジパング島発見記

ジパング島発見記

  • 作者: 山本 兼一
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2009/07/03
  • メディア: 単行本




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『レジ待ちの行列、進むのが早いのはどちらか』(内藤誼人,幻冬舎,2009.03.20) [本]

副題は「するどく見抜き、ストレスがなくなる心理術」。
表題の「進むのが早いレジ待ちの行列」の見極め方は、お年寄りの数の少ない列を選ぶ、というもの。
……でも、これって、心理術なのだろうか?

その他、雑学的に面白い知識が散りばめられているので、気分転換にはいいかも?


レジ待ちの行列、進むのが早いのはどちらか―するどく見抜き、ストレスがなくなる心理術

レジ待ちの行列、進むのが早いのはどちらか―するどく見抜き、ストレスがなくなる心理術

  • 作者: 内藤 誼人
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2009/03/20
  • メディア: 単行本



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『貧者を喰らう国』(阿古智子,新潮社,2009.09.20) [本]

この本は紹介しなければ、と、久しぶりの投稿。(^_^;)

副題は「中国格差社会からの警告」。
章構成は、次のとおり。
第1章 エイズ村の慟哭
第2章 荒廃する農村
第3章 漂白する農民工
第4章 社会主義市場経済の罠
第5章 歪んだ学歴競争

勉強になったのは、第3章で詳しく説明されている戸籍制度の変遷。
この問題が解決されないかぎり、貧富の差も解消されないだろう。
それにしても、戸籍制度の受益者である都市住民が戸籍制度の差別的な側面にはあまり注意を払っておらず、農民を「利害が衝突する対象」とすら見なしていないほど、彼我の格差が大きいことが悲しい。


貧者を喰らう国 中国格差社会からの警告

貧者を喰らう国 中国格差社会からの警告

  • 作者: 阿古 智子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/09/26
  • メディア: 単行本



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『利休にたずねよ』(山本兼一,PHP研究社,2008.11.07) [本]

言わずと知れた山本兼一の直木賞受賞作。
受賞後に読んだのだが、利休の死から時間軸を逆にたどっていく手法は新鮮だった。
千利休という誰もが知る人物を語るには、確かに有効。
特に、木槿の花に例えられ、物語の随所に姿を現すが、その実像のつかめない高麗の姫とのシーンを最後に持ってきているため、想像が掻きたてられる。
印象的だったのは、次の一節。

P.246
「そのほうは、なんと見た。ただ茶を喫するばかりのことに、なぜ、かくも人が集まってくる。なぜ、人は茶に夢中になる」
 利休はゆっくりうなずいた。みなが利休を見ている。
「それは、茶が人を殺すからでございましょう」
 真顔でつぶやいた。
「茶が人を殺す……とは、奇妙なことをいう」
 秀吉の目がいつになく抉るように利休を見すえている。
「はい。茶の湯には、人を殺してもなお手にしたいほどの美しさ、麗しさがあります。道具ばかりでなく、点前の所作にも、それほどな美しさを見ることがあります」
「なるほどな……」
「美しさは、けっして誤魔化しがききませぬ。道具にせよ、点前にせよ、茶人は、つねに命がけで絶妙の境地をもとめております。茶杓の節の位置が一分ちがえば気に染まず、点前のときに置いた蓋置の場所が、畳ひと目ちがえば内心身悶えいたします。それこそ、茶の湯の底なし沼、美しさの蟻地獄。ひとたびとらわれれば、命をも縮めてしまいます」
 話しながら利休は、じぶんがいつになく正直なのを感じていた。
「おまえはそこまで覚悟して茶の湯に精進しておるか」
 うなずいた秀吉が、溜息をついた。


皮肉なのは、利休がそこまで精進した茶の湯が、利休の孫である宗旦により、ひ孫にあたる宗盛(武者小路千家)、宗左(表千家)、宗室(裏千家)の三千家に分かれてしまったこと。
その過程でなにか重要なものも見失ったのではないだろうか……。
そんな気がしてならない。


利休にたずねよ

利休にたずねよ

  • 作者: 山本 兼一
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2008/10/25
  • メディア: 単行本



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『落語娘』(永田俊也,講談社,2005.12.15) [本]

ミムラ主演の映画を観て、原作の存在を初めて知り、読んでみた。
主人公の香須美の女前座としての厳しさや、平佐師匠の背景がしっかりと書き込まれているので、物語としての完成度は映画よりはるかに高い。ただ、物語としての華やかさでは映画に負けているように感じた。
尺の制約もあり、両立は難しいので、映画では平佐師匠の背景が省略され、結果として津川雅彦の熱演にも関わらず、平佐師匠が軽い存在になってしまったのだろう。ちと惜しい。


落語娘 (講談社文庫)

落語娘 (講談社文庫)

  • 作者: 永田 俊也
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/06/13
  • メディア: 文庫



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『虎屋ブランド物語』(川島蓉子,東洋経済新報社,2008.09.04) [本]

著者は『なぜデパ地下には人が集まるのか』で知られる川島蓉子。
期待して読んだのだが、今ひとつ。
「虎屋」という企業の偉大さはよく伝わってくるが、批判的な視点が欠落しているので、まるで御用記事を読んでいるような後味で、説得力がない。
ただ、若手登用とか、創業の理念を大切にしている企業風土のことを知ると、ここで働いてみたかった衝動に駆られる。
まあ、就職活動のときには視野にすら入っていなかった企業なので、詮無いけれど。


虎屋ブランド物語

虎屋ブランド物語

  • 作者: 川島 蓉子
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2008/08/22
  • メディア: 単行本



なぜデパ地下には人が集まるのか (PHP新書)

なぜデパ地下には人が集まるのか (PHP新書)

  • 作者: 川島 蓉子
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2008/10/16
  • メディア: 新書



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