『いっしん虎徹』(山本兼一,文藝春秋,2007.04.25) [本]
虎徹こと長曽禰興里についての物語。知らなかったことも多く、とても面白かった。
まず、虎徹が甲冑師だったということも知らなかったし、50歳ごろから作刀を始めたことも知らなかった。
新しい知識を得られた点でも面白かったし、妻のゆきとの情愛の細やかさにも心を打たれた。
再読必須。もう2度ほど読めば、さらに物語の面白みがわかりそうな気がする。
まず、虎徹が甲冑師だったということも知らなかったし、50歳ごろから作刀を始めたことも知らなかった。
新しい知識を得られた点でも面白かったし、妻のゆきとの情愛の細やかさにも心を打たれた。
再読必須。もう2度ほど読めば、さらに物語の面白みがわかりそうな気がする。
『のぼうの城』(和田竜,小学館,2007.12.03) [本]
『狂い咲き正宗-刀剣商ちょうじ屋光三郎』(山本兼一,講談社,2008.08.20) [本]
この小説を読むまで、山本兼一という作家のことは全く知らなかった。
だが、これまで知らなかったことが悔やまれる面白さの小説だった。
久しぶりに眠る時間も忘れて、仕事があるのに、明け方までかかって一気に読んでしまったほど。
巻末の略歴を見てみると、1956年京都府生まれ。
2004年『火天の城』で第11回松本清張賞を受賞、そして2005年には同じ『火天の城』で第132回直木賞候補に選出。
2008年には『千両花嫁』で第139回直木賞候補に選出。
知っていても不思議はない実力派の作家の方だったらしい。
知らなかった自分を恥じる気持ちで一杯。
物語は、将軍家の刀剣類を管理する御腰物奉行の長男で、父親に「正宗は存在しなかった」と言い切り、結果として勘当され、刀剣商に婿入りし、自分も刀剣商になった光三郎が主人公。
名刀に意外な形で関わる人々を興味深く描写している。
特に、山浦清麿が出てくることと、その描き方のうまさにはびっくり。
清麿は、隆慶一郎の『鬼麿斬人剣』にも登場し、重要な役割を果たしているが、もしかすると隆作品の影響があるのかもしれない。
しかし、やはり、直木賞候補になる作家の中には、まだ私の知らないすごい人が眠っている。
もっとちゃんと研究しないといけないなぁ。とにかく面白くて感心。
次は、虎鉄を主人公にしているらしい『いっしん虎鉄』を読んでみよう。
だが、これまで知らなかったことが悔やまれる面白さの小説だった。
久しぶりに眠る時間も忘れて、仕事があるのに、明け方までかかって一気に読んでしまったほど。
巻末の略歴を見てみると、1956年京都府生まれ。
2004年『火天の城』で第11回松本清張賞を受賞、そして2005年には同じ『火天の城』で第132回直木賞候補に選出。
2008年には『千両花嫁』で第139回直木賞候補に選出。
知っていても不思議はない実力派の作家の方だったらしい。
知らなかった自分を恥じる気持ちで一杯。
物語は、将軍家の刀剣類を管理する御腰物奉行の長男で、父親に「正宗は存在しなかった」と言い切り、結果として勘当され、刀剣商に婿入りし、自分も刀剣商になった光三郎が主人公。
名刀に意外な形で関わる人々を興味深く描写している。
特に、山浦清麿が出てくることと、その描き方のうまさにはびっくり。
清麿は、隆慶一郎の『鬼麿斬人剣』にも登場し、重要な役割を果たしているが、もしかすると隆作品の影響があるのかもしれない。
しかし、やはり、直木賞候補になる作家の中には、まだ私の知らないすごい人が眠っている。
もっとちゃんと研究しないといけないなぁ。とにかく面白くて感心。
次は、虎鉄を主人公にしているらしい『いっしん虎鉄』を読んでみよう。
『目覚めよと彼の呼ぶ声がする』(石田衣良,文藝春秋,2007.11.30) [本]
石田衣良のエッセイ集。
本の表紙は、石田氏の例の真っ白な仕事部屋の写真。
テレビの取材などで幾度も目にしていても、どうしても見入ってしまう魅力的な部屋だ。
なぜ、『目覚めよと彼の呼ぶ声がする』という哲学的な書名なのかは、不明。
どなたか教えてください。
彼が作家を目指すきっかけになった本が、エドガー・ライス・バロウズの『地底世界ペルシダー』だったり、藤沢周平の『用心棒日月抄』が愛読書だったりすることがわかり、少しうれしかった。
私も藤沢周平の作品の中でも、青江又八郎が活躍する『用心棒日月抄』は大好きなので……。
70作近く収録されたエッセイの中で、一番記憶に残ったのは、朝日新聞に連載された時評の中の『ぼくたちは知っている』という作品。
彼の切れ味の鋭い文章が、被害者報道の過激さに対する警告を鳴らしている。
短い文章なので、そのまま引用したいけれど、著作権の関係があるので慎みます。
長くて2分間で読めるけれど、考えさせられる問題提起です。ぜひご一読を。
本の表紙は、石田氏の例の真っ白な仕事部屋の写真。
テレビの取材などで幾度も目にしていても、どうしても見入ってしまう魅力的な部屋だ。
なぜ、『目覚めよと彼の呼ぶ声がする』という哲学的な書名なのかは、不明。
どなたか教えてください。
彼が作家を目指すきっかけになった本が、エドガー・ライス・バロウズの『地底世界ペルシダー』だったり、藤沢周平の『用心棒日月抄』が愛読書だったりすることがわかり、少しうれしかった。
私も藤沢周平の作品の中でも、青江又八郎が活躍する『用心棒日月抄』は大好きなので……。
70作近く収録されたエッセイの中で、一番記憶に残ったのは、朝日新聞に連載された時評の中の『ぼくたちは知っている』という作品。
彼の切れ味の鋭い文章が、被害者報道の過激さに対する警告を鳴らしている。
短い文章なので、そのまま引用したいけれど、著作権の関係があるので慎みます。
長くて2分間で読めるけれど、考えさせられる問題提起です。ぜひご一読を。
『早刷り岩次郎』(山本一力,朝日新聞出版,2008.07.30) [本]
『ザ・万歩計』(万城目学,産業編集センター,2008.03.25) [本]
初出は、雑誌やネットに掲載された随筆。
なんとなく高橋克彦に似た文体。小説家になるという決意で、仕事を辞めて上京するあたりは、思い切りのよさに感心せざるを得ない。
全体的には、読みやすくて楽しかった。
ただ、『鹿男あをによし』で鹿がしゃべるという発想を、モンゴルで得た経緯を語る文章は、ちょっと思わせぶりで気になる。
以下、引用。
それにしても、「万歩計」という言葉が、山佐時計機器による登録商標だとは知らなかったなぁ。
新鮮な驚きがあった。
なんとなく高橋克彦に似た文体。小説家になるという決意で、仕事を辞めて上京するあたりは、思い切りのよさに感心せざるを得ない。
全体的には、読みやすくて楽しかった。
ただ、『鹿男あをによし』で鹿がしゃべるという発想を、モンゴルで得た経緯を語る文章は、ちょっと思わせぶりで気になる。
以下、引用。
憧れは憧れのまましまっておくほうがいい、という言葉は確かに真実なのかもしれない。
だが一方で、私はモンゴルで出会ったトナカイから、重大な真実を授けられ、日本に持ち帰ってきた。
タイガの地で日々、トナカイに囲まれながら、私はこの小便好きな動物が今にもしゃべりだしそうな気がしてならなかった。どこまでもボーッとして、実際何も考えていないらしいが、そのがらんどうの瞳は、逆にすべてを見通しているかに思えた。
「知ってますぜ。本当はしゃべるんでしょう、あなた」
ある日、私は小用を済ませながらトナカイに語りかけた。普段は“ぼう”としか話さないはずの連中が、小便を横面に浴びながら、このときいかなる反応を示したかは、私とトナカイだけの秘密である。
かの地でトナカイは、神の使いと言われていた。不思議なことに、日本にも同じく、神の使いと言われている、トナカイに似た生き物がいた。
あのとき、タイガの森でトナカイが授けてくれた真実を、七年後、私はその生き物に置き換え、一冊の本を書いた。
かつて私が抱いたモンゴルへの憧れは、風に乗って、ずいぶん形を変えて戻ってきたのである。
かの「あをによし」の地を目指して。
それにしても、「万歩計」という言葉が、山佐時計機器による登録商標だとは知らなかったなぁ。
新鮮な驚きがあった。
『くじら日和』(山本一力,文藝春秋,2008.02.15) [本]
『本多の狐-徳川家康の秘宝』(羽太雄平,講談社,1992.01.14) [本]
第2回時代小説大賞受賞作。
隆慶一郎の影響を強く受けている作風、という評判を耳にして読んでみた。
確かに『影武者徳川家康』や『吉原御免状』に似た雰囲気を感じなくはない。
特に、本書の主人公の浮田平四郎と『吉原御免状』の松永誠一郎は、人物造形が似ていて、二人とも好ましい雰囲気ではあるが、やはり浮田平四郎の方が、造形の練り込みが甘いというか、ぼんやりしている。
ただ、式年遷宮を物語のトリックの核に持ってくる展開には唸らされた。
また、家康の秘宝に関して書かれた小説は数あれど、いわゆる秘宝らしい秘宝である金鉱床に加え、「李朝活字」という一見値打ちのないものを真の秘宝として組み込んである小説は、数少ないと思った。
その上、その「李朝活字」を天草の乱につなげた点は、見事としかいいようがない。
そんな長所は数あれど、今ひとつ物語としては評価しづらいのはなぜだろう。
再読はしないかなぁ……?
隆慶一郎の影響を強く受けている作風、という評判を耳にして読んでみた。
確かに『影武者徳川家康』や『吉原御免状』に似た雰囲気を感じなくはない。
特に、本書の主人公の浮田平四郎と『吉原御免状』の松永誠一郎は、人物造形が似ていて、二人とも好ましい雰囲気ではあるが、やはり浮田平四郎の方が、造形の練り込みが甘いというか、ぼんやりしている。
ただ、式年遷宮を物語のトリックの核に持ってくる展開には唸らされた。
また、家康の秘宝に関して書かれた小説は数あれど、いわゆる秘宝らしい秘宝である金鉱床に加え、「李朝活字」という一見値打ちのないものを真の秘宝として組み込んである小説は、数少ないと思った。
その上、その「李朝活字」を天草の乱につなげた点は、見事としかいいようがない。
そんな長所は数あれど、今ひとつ物語としては評価しづらいのはなぜだろう。
再読はしないかなぁ……?
『大江戸妖美伝』(石川英輔,講談社,2006.02.23) [本]
石川英輔の大江戸シリーズ(全7作)の第7作。
今のところ、この『妖美伝』が最新刊のようだ。
妖美伝という題名だが、本の内容は、美しくはあっても、妖しくはない。
どうして、こんな題名にしたのだろう……?
現代と文政年間の江戸を行き来していた洋介は、ついに意識だけで二つの時代を行き来することが可能になり、物語の最後には、
『自分が一人であろうが二人に分裂していようが、自分ではどうすることもできないのだから、ここはいな吉の楽天性を見習って運を天にまかせ、なるようになると思って前向きに生きるほかなさそうだった』
と開き直ってしまう。
……物語とはいえ、それでいいのだろうか。
江戸時代の女性の中には、着物姿で潮干狩りを楽しんでいた人もいた、というエピソードは、なんとなく微笑ましかった。
このシリーズ(全7作)に関するレビューをまとめてみました。
よろしければ、他の作品のレビューもご覧いただければ幸いです。
今のところ、この『妖美伝』が最新刊のようだ。
妖美伝という題名だが、本の内容は、美しくはあっても、妖しくはない。
どうして、こんな題名にしたのだろう……?
現代と文政年間の江戸を行き来していた洋介は、ついに意識だけで二つの時代を行き来することが可能になり、物語の最後には、
『自分が一人であろうが二人に分裂していようが、自分ではどうすることもできないのだから、ここはいな吉の楽天性を見習って運を天にまかせ、なるようになると思って前向きに生きるほかなさそうだった』
と開き直ってしまう。
……物語とはいえ、それでいいのだろうか。
江戸時代の女性の中には、着物姿で潮干狩りを楽しんでいた人もいた、というエピソードは、なんとなく微笑ましかった。
このシリーズ(全7作)に関するレビューをまとめてみました。
よろしければ、他の作品のレビューもご覧いただければ幸いです。
- 『大江戸神仙伝』(石川英輔,評論社,1992.02.20)
- 『大江戸仙境録』(石川英輔,講談社,1986.11.05)
- 『大江戸遊仙記』(石川英輔,講談社,1990.12.05)
- 『大江戸仙界紀』(石川英輔,講談社,1993.05.31)
- 『大江戸仙女暦』(いな吉江戸暦)(石川英輔,講談社,1996.01.30)
- 『大江戸仙花暦』(石川英輔,講談社,1999.12.10)
- 『大江戸妖美伝』(石川英輔,講談社,2006.02.23)
『大江戸仙花暦』(石川英輔,講談社,1999.12.10) [本]
石川英輔の大江戸シリーズ(全7作)の第6作。
寺子屋や消防の仕組みなどが詳しく描写され、興味深い。
不便なところは多いかもしれないが、負荷が少なく、持続型社会の江戸と、便利だけれど、環境に負荷をかけ、いつまで続けられるのかわからない現代社会。
際限のない進歩で失ったものと得たものを、一度、真剣に天秤にかけるべき時が来ていると思うのだが……。
このシリーズ(全7作)に関するレビューをまとめてみました。
よろしければ、ご覧ください。
寺子屋や消防の仕組みなどが詳しく描写され、興味深い。
不便なところは多いかもしれないが、負荷が少なく、持続型社会の江戸と、便利だけれど、環境に負荷をかけ、いつまで続けられるのかわからない現代社会。
際限のない進歩で失ったものと得たものを、一度、真剣に天秤にかけるべき時が来ていると思うのだが……。
このシリーズ(全7作)に関するレビューをまとめてみました。
よろしければ、ご覧ください。
- 『大江戸神仙伝』(石川英輔,評論社,1992.02.20)
- 『大江戸仙境録』(石川英輔,講談社,1986.11.05)
- 『大江戸遊仙記』(石川英輔,講談社,1990.12.05)
- 『大江戸仙界紀』(石川英輔,講談社,1993.05.31)
- 『大江戸仙女暦』(いな吉江戸暦)(石川英輔,講談社,1996.01.30)
- 『大江戸仙花暦』(石川英輔,講談社,1999.12.10)
- 『大江戸妖美伝』(石川英輔,講談社,2006.02.23)
『大江戸仙女暦』(いな吉江戸暦)(石川英輔,講談社,1996.01.30) [本]
石川英輔の大江戸シリーズ(全7作)の第5作。
刊行当初の書名は『いな吉江戸暦』。
文庫化にあたり、これまでの作品との連続性を考えて<大江戸>と<仙>の寺を入れた方が読者にわかりやすいだろうという編集部の意向で改題されたとのこと。
主人公の速水洋介は、今回、1820年代のロンドンにも、文政年間の江戸と同じように転時してみた結果、次に江戸に転時したときは、今までより5年間ほど過去にずれてしまい、結果として、パラレル・ワールドと思われる江戸で暮らすことに。
どうやら作者は、少し過去に戻って、文政年間を見直したくなったようだ。
5年分だけ過去の江戸では、歌舞伎役者の団十郎と知り合うことになり、歌舞伎に関する描写などが書き込まれていく。
また、1820年代のロンドンと江戸を対比することで、現在までの変化で失ったものがよくわかった。
アレックス・カーの『美しき日本の残像』を読んでも思うことだが、明治、大正、昭和という大きな時代の変遷の中で、失ったものが多すぎて、切なくなる。
特に、白魚と「しろうお」が全く違うもの(「しろうお」はハゼ科の魚)で、白魚は人が飲めるぐらいきれいな水でなければ繁殖できないほど汚染に弱い魚で、現在の地球上にはあまり残っていない、という話には心を打たれた。
白魚を失った代償に、私たちはなにを得たのだろう……。
このシリーズ(全7作)に関するレビューをまとめてみました。
よろしければ、ご覧ください。
刊行当初の書名は『いな吉江戸暦』。
文庫化にあたり、これまでの作品との連続性を考えて<大江戸>と<仙>の寺を入れた方が読者にわかりやすいだろうという編集部の意向で改題されたとのこと。
主人公の速水洋介は、今回、1820年代のロンドンにも、文政年間の江戸と同じように転時してみた結果、次に江戸に転時したときは、今までより5年間ほど過去にずれてしまい、結果として、パラレル・ワールドと思われる江戸で暮らすことに。
どうやら作者は、少し過去に戻って、文政年間を見直したくなったようだ。
5年分だけ過去の江戸では、歌舞伎役者の団十郎と知り合うことになり、歌舞伎に関する描写などが書き込まれていく。
また、1820年代のロンドンと江戸を対比することで、現在までの変化で失ったものがよくわかった。
アレックス・カーの『美しき日本の残像』を読んでも思うことだが、明治、大正、昭和という大きな時代の変遷の中で、失ったものが多すぎて、切なくなる。
特に、白魚と「しろうお」が全く違うもの(「しろうお」はハゼ科の魚)で、白魚は人が飲めるぐらいきれいな水でなければ繁殖できないほど汚染に弱い魚で、現在の地球上にはあまり残っていない、という話には心を打たれた。
白魚を失った代償に、私たちはなにを得たのだろう……。
このシリーズ(全7作)に関するレビューをまとめてみました。
よろしければ、ご覧ください。
- 『大江戸神仙伝』(石川英輔,評論社,1992.02.20)
- 『大江戸仙境録』(石川英輔,講談社,1986.11.05)
- 『大江戸遊仙記』(石川英輔,講談社,1990.12.05)
- 『大江戸仙界紀』(石川英輔,講談社,1993.05.31)
- 『大江戸仙女暦』(いな吉江戸暦)(石川英輔,講談社,1996.01.30)
- 『大江戸仙花暦』(石川英輔,講談社,1999.12.10)
- 『大江戸妖美伝』(石川英輔,講談社,2006.02.23)
『大江戸仙界紀』(石川英輔,講談社,1993.05.31) [本]
石川英輔の大江戸シリーズ(全7作)の第4作。
文政年間の江戸の正月が細かく書き込まれ、読み応えのある一冊だった。
熱海では、いな吉が現代に移動してくるというおまけつき。
最後の一節が、深く心に残った。
たしかに広いだろうなぁ、歩けば。
少子化や経済力の低下の結果として、将来の日本も、江戸時代のような生活様式にゆっくりと回帰して行かざるを得ないのかもしれない。
その方が、人の生き方としては幸せな気もする。
このシリーズ(全7作)に関するレビューをまとめてみました。
よろしければ、ご覧ください。
文政年間の江戸の正月が細かく書き込まれ、読み応えのある一冊だった。
熱海では、いな吉が現代に移動してくるというおまけつき。
最後の一節が、深く心に残った。
私は、ふと思った。いな吉が、現代日本の社会を不思議な仙境と呼ぶのなら、文政年間のこの日本は何と呼ぶべきなのだろうか。
-仙界-
ぼんやり考えているうちに、そんな言葉が浮かんだ。仙境に対立する概念とはいえないが、仙境よりも広々してのどかな響きがあって、人間があまりのさばっていないこの時代にふさわしいような気がする。
まだしばらくは仙界の熱海に滞在してから、箱根廻りで湯本、江ノ島、鎌倉、川崎大師などに寄りながら帰る予定にしているが、この分では、帰りは江戸まで一週間ぐらいかかりそうである。
新幹線に乗れば狭い日本も、足で歩けば果てしなく広い仙界なのだ。
たしかに広いだろうなぁ、歩けば。
少子化や経済力の低下の結果として、将来の日本も、江戸時代のような生活様式にゆっくりと回帰して行かざるを得ないのかもしれない。
その方が、人の生き方としては幸せな気もする。
このシリーズ(全7作)に関するレビューをまとめてみました。
よろしければ、ご覧ください。
- 『大江戸神仙伝』(石川英輔,評論社,1992.02.20)
- 『大江戸仙境録』(石川英輔,講談社,1986.11.05)
- 『大江戸遊仙記』(石川英輔,講談社,1990.12.05)
- 『大江戸仙界紀』(石川英輔,講談社,1993.05.31)
- 『大江戸仙女暦』(いな吉江戸暦)(石川英輔,講談社,1996.01.30)
- 『大江戸仙花暦』(石川英輔,講談社,1999.12.10)
- 『大江戸妖美伝』(石川英輔,講談社,2006.02.23)
『大江戸遊仙記』(石川英輔,講談社,1990.12.05) [本]
石川英輔の大江戸シリーズ(全7作)の第3作。
これまでの2作の雰囲気と若干変わり、現代の妻(流子)と文政の江戸にいるいな吉との間を、主人公が行き来する様子が中心。
シリーズの他の作品と比べると、残念ながら、秀作とは言い難い。
このシリーズ(全7作)に関するレビューをまとめてみました。
よろしければ、ご覧ください。
これまでの2作の雰囲気と若干変わり、現代の妻(流子)と文政の江戸にいるいな吉との間を、主人公が行き来する様子が中心。
シリーズの他の作品と比べると、残念ながら、秀作とは言い難い。
このシリーズ(全7作)に関するレビューをまとめてみました。
よろしければ、ご覧ください。
- 『大江戸神仙伝』(石川英輔,評論社,1992.02.20)
- 『大江戸仙境録』(石川英輔,講談社,1986.11.05)
- 『大江戸遊仙記』(石川英輔,講談社,1990.12.05)
- 『大江戸仙界紀』(石川英輔,講談社,1993.05.31)
- 『大江戸仙女暦』(いな吉江戸暦)(石川英輔,講談社,1996.01.30)
- 『大江戸仙花暦』(石川英輔,講談社,1999.12.10)
- 『大江戸妖美伝』(石川英輔,講談社,2006.02.23)
『大江戸仙境録』(石川英輔,講談社,1986.11.05) [本]
石川英輔の大江戸シリーズ(全7作)の第2作。
文政の江戸から現代に戻った洋介のもとに、<速水洋介さま>と宛名があるだけで、切手も貼っていなければ住所も書いていない封書が届く。
その中には、信じられないことに文政の江戸に残してきた少女(いな吉)からの手紙が入っていた。あり得ない事態に、洋介は……、というのが冒頭の展開。
もう一人の転時能力者が出てきたりして、かなり読ませるお話だった。
物語の最終で、洋介が自分の菩提寺の墓地で、いな吉の石塔を見つける場面には、思わず涙がこぼれた。
このシリーズ(全7作)に関するレビューをまとめてみました。
よろしければ、ご覧ください。
文政の江戸から現代に戻った洋介のもとに、<速水洋介さま>と宛名があるだけで、切手も貼っていなければ住所も書いていない封書が届く。
その中には、信じられないことに文政の江戸に残してきた少女(いな吉)からの手紙が入っていた。あり得ない事態に、洋介は……、というのが冒頭の展開。
もう一人の転時能力者が出てきたりして、かなり読ませるお話だった。
物語の最終で、洋介が自分の菩提寺の墓地で、いな吉の石塔を見つける場面には、思わず涙がこぼれた。
このシリーズ(全7作)に関するレビューをまとめてみました。
よろしければ、ご覧ください。
- 『大江戸神仙伝』(石川英輔,評論社,1992.02.20)
- 『大江戸仙境録』(石川英輔,講談社,1986.11.05)
- 『大江戸遊仙記』(石川英輔,講談社,1990.12.05)
- 『大江戸仙界紀』(石川英輔,講談社,1993.05.31)
- 『大江戸仙女暦』(いな吉江戸暦)(石川英輔,講談社,1996.01.30)
- 『大江戸仙花暦』(石川英輔,講談社,1999.12.10)
- 『大江戸妖美伝』(石川英輔,講談社,2006.02.23)
『大江戸神仙伝』(石川英輔,評論社,1992.02.20) [本]
石川英輔の大江戸シリーズ(全7作)の記念すべき第1作。
1979年初版。
私が読んだのは、評論社刊の復刻版。
約30年前に、これほど完成度の高い小説が出版されていたのかと思うと、感慨深い。
もっと早く読んでいなかったことを後悔するほどの秀作。
ジャンルとしては、SFなのか、時代小説なのか……?
脚気を米糠から抽出したビタミンBで治療し、生活の基盤となる収入を得る、というのは、きちんとした知識の裏付けがないと思いつかない発想で素晴らしい。
このシリーズ(全7作)に関するレビューをまとめてみました。
よろしければ、ご覧ください。
1979年初版。
私が読んだのは、評論社刊の復刻版。
約30年前に、これほど完成度の高い小説が出版されていたのかと思うと、感慨深い。
もっと早く読んでいなかったことを後悔するほどの秀作。
ジャンルとしては、SFなのか、時代小説なのか……?
脚気を米糠から抽出したビタミンBで治療し、生活の基盤となる収入を得る、というのは、きちんとした知識の裏付けがないと思いつかない発想で素晴らしい。
このシリーズ(全7作)に関するレビューをまとめてみました。
よろしければ、ご覧ください。
- 『大江戸神仙伝』(石川英輔,評論社,1992.02.20)
- 『大江戸仙境録』(石川英輔,講談社,1986.11.05)
- 『大江戸遊仙記』(石川英輔,講談社,1990.12.05)
- 『大江戸仙界紀』(石川英輔,講談社,1993.05.31)
- 『大江戸仙女暦』(いな吉江戸暦)(石川英輔,講談社,1996.01.30)
- 『大江戸仙花暦』(石川英輔,講談社,1999.12.10)
- 『大江戸妖美伝』(石川英輔,講談社,2006.02.23)
『美の猟犬 安宅コレクション余聞』(伊藤郁太郎,日本経済新聞出版社,2007.10.18) [本]
『東洋経済』に紹介されていたので読んでみた本。
安宅英一氏のもとで、安宅コレクションの収集に携わり、その後、コレクションの収蔵先である大阪市立東洋陶磁美術館の館長に就任し、現在に至るという筆者による、コレクションと安宅氏に関する覚え書きのような本。
私は、今まできちんと安宅コレクションを観たことがないけれど、三井記念美術館で開催され、ちょうど観る機会のあった「安宅英一の眼 安宅コレクション・美の創造者」展を観ておけばよかったと、かなり後悔。
安宅氏はかなり癖の強い人物だったようだが、コレクションが東洋陶磁美術館に収蔵された後の筆者とのやりとりがとても印象的だった。
以下、引用。
筆者は「しかしよく考えると、本物のコレクターの究極の境地とは、このようなものかもしれない、ということにやがて気付かされた。この一言だけに據っても、安宅さんが不世出のコレクターであったという証しとなるように思う」と書いているが、確かに、コレクターというものは、コレクターである以上、「誰が持っていても同じでしょう」とは言えないよなぁ。
とことん集めてしまうと、却って執着がなくなるものなのだろうか。
なお、題名の「美の猟犬」とは、安宅氏の命を受けて、美術品の収集に奔走する筆者自身のことを「猟犬」に例えたもの。てっきり「美の収集に猟犬のような執念を燃やす安宅英一」という意味かと思っていたので、少し意表を突かれた。
安宅英一氏のもとで、安宅コレクションの収集に携わり、その後、コレクションの収蔵先である大阪市立東洋陶磁美術館の館長に就任し、現在に至るという筆者による、コレクションと安宅氏に関する覚え書きのような本。
私は、今まできちんと安宅コレクションを観たことがないけれど、三井記念美術館で開催され、ちょうど観る機会のあった「安宅英一の眼 安宅コレクション・美の創造者」展を観ておけばよかったと、かなり後悔。
安宅氏はかなり癖の強い人物だったようだが、コレクションが東洋陶磁美術館に収蔵された後の筆者とのやりとりがとても印象的だった。
以下、引用。
その時、ふと、それまで言いそびれていたことを口に出した。
「いろんな人から聞かれるんですけれど、安宅さんは、今、さぞお気落ちのことでしょうね、あれだけ打ち込んで来られたコレクションが、人手に渡ったんだからと、しばしば尋ねられます」
すると安宅さんはその時に限って私の方を振り返り、不思議そうに「どうして?」
私は思わず「どうしてって、多くの人がそう思っています」と答える。
安宅さんは顔を前に戻して、つぶやくように、ごく当たり前のように答える。
「だってコレクションとは、誰が持っていても同じでしょう……?」
筆者は「しかしよく考えると、本物のコレクターの究極の境地とは、このようなものかもしれない、ということにやがて気付かされた。この一言だけに據っても、安宅さんが不世出のコレクターであったという証しとなるように思う」と書いているが、確かに、コレクターというものは、コレクターである以上、「誰が持っていても同じでしょう」とは言えないよなぁ。
とことん集めてしまうと、却って執着がなくなるものなのだろうか。
なお、題名の「美の猟犬」とは、安宅氏の命を受けて、美術品の収集に奔走する筆者自身のことを「猟犬」に例えたもの。てっきり「美の収集に猟犬のような執念を燃やす安宅英一」という意味かと思っていたので、少し意表を突かれた。
『女子の古本屋』(岡崎武志,筑摩書房,2008.03.25) [本]
倉敷市の古書店「蟲文庫」の店主さんのブログで紹介されていたのが気になり、読んでみた。
13人の個性派の女性古書店主を紹介した本。
当然のことながら、「蟲文庫」のことも収録されている。
2003年5月号の『クウネル』や2004年7月号の『ブルータス』で紹介されて有名になった背景など、初めて知ることが多かった。
私にとって「蟲文庫」は、「古い町並みが好きでよく通る道沿いにある、雰囲気のいい古本屋さん」でしかないのだけれど、雑誌の記事で知った人などは、倉敷に来るときの大きな目的が「蟲文庫」を訪ねることだったりするようだ。
そういえば、あの一青窈さんも、2006年3月の岡山でのライブのときに「蟲文庫に行った。独特の雰囲気のお店だった」と、曲の合間のトークのときに話していたものなぁ。
きっと、感度のいい人の心をとらえる、特別な何かがあるのだろう。
確かに、雰囲気の和やかないいお店だものなぁ。
本で紹介されていた他のお店の中では、東京の雑司が谷にある「旅猫雑貨店」と、神戸にあるという「トンカ書店」には、いつか行ってみたい。
なんだかとっても楽しそうだ。
しかし、古書店というのは、次々と少なくなっていることからもわかるように、全般的に大変な商売のようだ。
好きじゃないとできないし、好きなだけでもできないよなぁ……。
13人の個性派の女性古書店主を紹介した本。
当然のことながら、「蟲文庫」のことも収録されている。
2003年5月号の『クウネル』や2004年7月号の『ブルータス』で紹介されて有名になった背景など、初めて知ることが多かった。
私にとって「蟲文庫」は、「古い町並みが好きでよく通る道沿いにある、雰囲気のいい古本屋さん」でしかないのだけれど、雑誌の記事で知った人などは、倉敷に来るときの大きな目的が「蟲文庫」を訪ねることだったりするようだ。
そういえば、あの一青窈さんも、2006年3月の岡山でのライブのときに「蟲文庫に行った。独特の雰囲気のお店だった」と、曲の合間のトークのときに話していたものなぁ。
きっと、感度のいい人の心をとらえる、特別な何かがあるのだろう。
確かに、雰囲気の和やかないいお店だものなぁ。
本で紹介されていた他のお店の中では、東京の雑司が谷にある「旅猫雑貨店」と、神戸にあるという「トンカ書店」には、いつか行ってみたい。
なんだかとっても楽しそうだ。
しかし、古書店というのは、次々と少なくなっていることからもわかるように、全般的に大変な商売のようだ。
好きじゃないとできないし、好きなだけでもできないよなぁ……。
『武士の家計簿』(磯田道史,新潮社,2003.04.10) [本]
副題は「加賀藩御算用者の幕末維新」。
『殿様の通信簿』との掲載順が逆になったけれど、発行順も、私が読み終えたのもこちらの本が先。
読み始めたら、さくさくと読むことができるし、おもしろいのでやめることができなかった。それくらい内容も興味深く、文章力もある作品だった。
著者は1970年岡山市生まれで、慶應義塾大学文学研究科博士課程修了、という経歴。
内容もすごく興味深く、とても意味のある研究になっていると感じた。
やはり、才能のある人は、研究生活を無駄にしないのだなぁ。
心に残ったのは、あとがきの最後にある文章。
私にとって「社会に役立つ技術」とは、なんだろうか……。
それが見つからないと、ほんとうの意味でのキャリアは形成できないよなぁ。う~む。
『殿様の通信簿』との掲載順が逆になったけれど、発行順も、私が読み終えたのもこちらの本が先。
読み始めたら、さくさくと読むことができるし、おもしろいのでやめることができなかった。それくらい内容も興味深く、文章力もある作品だった。
著者は1970年岡山市生まれで、慶應義塾大学文学研究科博士課程修了、という経歴。
内容もすごく興味深く、とても意味のある研究になっていると感じた。
やはり、才能のある人は、研究生活を無駄にしないのだなぁ。
心に残ったのは、あとがきの最後にある文章。
大きな社会変動のある時代には、「今いる組織の外に出ても、必要とされる技術や能力を持っているか」が人の死活をわける。かつて家柄を誇った士族たちの多くは、過去をなつかしみ、現状に不平をいい、そして将来を不安がった。彼らに未来はきていない。栄光の加賀藩とともに美しく沈んでいったのである。一方、自分の現状をなげくより、自分の現行をなげき、社会に役立つ技術を身に付けようとした士族には、未来がきた。私は歴史家として、激動を生きたこの家族の物語を書き終え、人にも自分にも、このことだけは確信をもって静かにいえる。怖れず、まっとうなことをすれば、よいのである……。
私にとって「社会に役立つ技術」とは、なんだろうか……。
それが見つからないと、ほんとうの意味でのキャリアは形成できないよなぁ。う~む。
『だいこん』(山本一力,光文社,2005.01.25) [本]
随分前に単行本で読んだのですが、ふと気づくと文庫化されていました。
以前の読後感がよかったので、買おうかどうか思案中。(^_^;)
「つばき」という名の少女が、自分の才覚で「だいこん」という一膳飯屋を繁盛させていく物語。
江戸庶民の暮らしを描くのが得意な山本一力らしい人情話の展開が読ませる。
なかでも「いつもの通り、つばきは芯をはずさずに真っ直ぐ問いかけてきた」という一節は印象的。
のらりくらりと持って回った言い方をするよりは、やはり、芯を外さない真っ直ぐな問いかけの方が人の心に届くに違いない。そう信じよう。
それから、つばきが口入屋の番頭から学ぶ人定めのコツにある、
『笑顔がきれいなひと』
『骨惜しみをせず、腰が軽いひと』
『声が明るいひと』
『好き嫌いを言わず、出されたものは残さずなんでも食べるひと』
というのは、心にとめておこう。
このコツを心に刻んでおけば、いつかいい人に巡り会えそうな気がする。
過去と現在が行ったり来たりする構成が、あまり巧みではないため、物語の流れがわかりにくくなっているのが、唯一の難点だが、面白かった。秀作。
今、蒼井優主演でやっている日本テレビのドラマ『おせん』と重なる雰囲気があるので、できるものなら蒼井優でドラマ化か映画化されたものを見てみたい。
『あかね空』が中谷美紀主演で映画化された山本一力なのだから、まったくの夢ではないと思うのだけれど……。……無理かなぁ?
以前の読後感がよかったので、買おうかどうか思案中。(^_^;)
「つばき」という名の少女が、自分の才覚で「だいこん」という一膳飯屋を繁盛させていく物語。
江戸庶民の暮らしを描くのが得意な山本一力らしい人情話の展開が読ませる。
なかでも「いつもの通り、つばきは芯をはずさずに真っ直ぐ問いかけてきた」という一節は印象的。
のらりくらりと持って回った言い方をするよりは、やはり、芯を外さない真っ直ぐな問いかけの方が人の心に届くに違いない。そう信じよう。
それから、つばきが口入屋の番頭から学ぶ人定めのコツにある、
『笑顔がきれいなひと』
『骨惜しみをせず、腰が軽いひと』
『声が明るいひと』
『好き嫌いを言わず、出されたものは残さずなんでも食べるひと』
というのは、心にとめておこう。
このコツを心に刻んでおけば、いつかいい人に巡り会えそうな気がする。
過去と現在が行ったり来たりする構成が、あまり巧みではないため、物語の流れがわかりにくくなっているのが、唯一の難点だが、面白かった。秀作。
今、蒼井優主演でやっている日本テレビのドラマ『おせん』と重なる雰囲気があるので、できるものなら蒼井優でドラマ化か映画化されたものを見てみたい。
『あかね空』が中谷美紀主演で映画化された山本一力なのだから、まったくの夢ではないと思うのだけれど……。……無理かなぁ?
『殿様の通信簿』(磯田道史,朝日新聞社,2006.06.30) [本]
『苔とあるく』(田中美穂,WAVE出版,2007.10.13) [本]
倉敷の本町通りの一角にある、古書店「蟲文庫」店主の田中さんが書いた、コケ観察の本。
初版は、2007年10月だが、私が読んだのは2008年3月発行の第2刷。
『週刊ブックレビュー』などで紹介された効果が大きいのかもしれないけれど、こういう極めてニッチな分野の本が重版されている、ということは、やはりすごいことだと思う。
全編、コケの観察というか、コケに関するいろいろな知識が散りばめられていて、コケにもいろいろあるのだなぁ、と、ひたすら感心させられた。
きれいな写真も多く、わかりやすい表現で専門的になり過ぎずに書かれているので、コケ観察の入門書としては最適かも。
倉敷が舞台というか、知っている地名や見慣れた風景が随所に出てくるので、とても楽しく読めた。
今度、阿智神社の登り口にある大石を観察してみよう。
月に2~3度は通る道なのに、こんな絶好の観察スポットがあるなんて、気づいていなかったなぁ。
それにしても、「そこにあるのに、見えていないもの」が、なんと多いことか……。
苔ばかりでなく、倉敷のお店もそう。
現に、蟲文庫さんの真ん前に「倉敷CLASSICA」(http://www.k-classica.com/)があることにも、つい昨日気がついた。3か月くらい前からあったらしいのに……。(^_^;)
著者であり、蟲文庫店主である田中さんとは、お店にお伺いしたときに時折お話をすることがあるけれど、穏やかで、少し不思議な佇まいの方です。
そういえば、本上まなみさんもコケ好きで有名だったような……?
雰囲気がちょっと似ている気がして、なんだか微笑ましい。
初版は、2007年10月だが、私が読んだのは2008年3月発行の第2刷。
『週刊ブックレビュー』などで紹介された効果が大きいのかもしれないけれど、こういう極めてニッチな分野の本が重版されている、ということは、やはりすごいことだと思う。
全編、コケの観察というか、コケに関するいろいろな知識が散りばめられていて、コケにもいろいろあるのだなぁ、と、ひたすら感心させられた。
きれいな写真も多く、わかりやすい表現で専門的になり過ぎずに書かれているので、コケ観察の入門書としては最適かも。
倉敷が舞台というか、知っている地名や見慣れた風景が随所に出てくるので、とても楽しく読めた。
今度、阿智神社の登り口にある大石を観察してみよう。
月に2~3度は通る道なのに、こんな絶好の観察スポットがあるなんて、気づいていなかったなぁ。
それにしても、「そこにあるのに、見えていないもの」が、なんと多いことか……。
苔ばかりでなく、倉敷のお店もそう。
現に、蟲文庫さんの真ん前に「倉敷CLASSICA」(http://www.k-classica.com/)があることにも、つい昨日気がついた。3か月くらい前からあったらしいのに……。(^_^;)
著者であり、蟲文庫店主である田中さんとは、お店にお伺いしたときに時折お話をすることがあるけれど、穏やかで、少し不思議な佇まいの方です。
そういえば、本上まなみさんもコケ好きで有名だったような……?
雰囲気がちょっと似ている気がして、なんだか微笑ましい。
『江戸の吉原 郭遊び』(白倉敬彦,学習研究社,2003.03.18) [本]
今までに読んだことのある吉原に関する研究書の中では、出色の出来に思えた。
山東京伝の立場を考えた上での解説など、今までのいろんな疑問が氷解するほど。
成立に関しても、幕府による女歌舞伎の禁止の結果、その中の花形級がいわゆる太夫になったのではないか、という読みには、確かに頷かされる。
それにしても、徳川家康と庄司甚右衛門の間には、どんな密約があったんだろう。
まさか、隆慶一郎の『吉原御免状』みたいな秘密ではないとは思うけれど。
しかし、驚いたのは、江戸時代の新吉原と、今の吉原(千束4丁目)の通りが、ほとんど変わらずに、昔のままで残されていること。
水路は暗渠となり、土手もなくなっているけれど、「どて通り」と名づけられているらしいし、揚屋町通りとか、角屋町通りとかいう名前も、そのまま残っているし……。
いろいろな事情で、再開発できなかっただけなのかもしれないが、なんだか感慨深い。
山東京伝の立場を考えた上での解説など、今までのいろんな疑問が氷解するほど。
成立に関しても、幕府による女歌舞伎の禁止の結果、その中の花形級がいわゆる太夫になったのではないか、という読みには、確かに頷かされる。
それにしても、徳川家康と庄司甚右衛門の間には、どんな密約があったんだろう。
まさか、隆慶一郎の『吉原御免状』みたいな秘密ではないとは思うけれど。
しかし、驚いたのは、江戸時代の新吉原と、今の吉原(千束4丁目)の通りが、ほとんど変わらずに、昔のままで残されていること。
水路は暗渠となり、土手もなくなっているけれど、「どて通り」と名づけられているらしいし、揚屋町通りとか、角屋町通りとかいう名前も、そのまま残っているし……。
いろいろな事情で、再開発できなかっただけなのかもしれないが、なんだか感慨深い。
『Gボーイズ冬戦争』(石田衣良,文藝春秋,2007.04.25) [本]
池袋ウエストゲートパーク・シリーズの第7作。
移動中の新幹線の中で、あっという間に読み進められてしまったほど、いい意味でクオリティが高い。
特に興味深かったのは『詐欺師のヴィーナス』。
あの手の版画というか複製画を売るのが、これほど悪質な商法だとは、なんとなく怪しいとは思っていたけれど、知らなかった。10枚限定のきちんとした作家の版画でも27万円だと考えると、たしかにひどい。
でも、調べてみると、某人気漫画家の複製画にサインが入ると、30万円を超えていた。
大手出版社まで同じようなことをやっているとは……。絶句。
気に入ったのは、『要町テレフォンマン』の最後の一節。
こういった感覚を忘れないところが、石田衣良の強みなのだろう、きっと。
移動中の新幹線の中で、あっという間に読み進められてしまったほど、いい意味でクオリティが高い。
特に興味深かったのは『詐欺師のヴィーナス』。
あの手の版画というか複製画を売るのが、これほど悪質な商法だとは、なんとなく怪しいとは思っていたけれど、知らなかった。10枚限定のきちんとした作家の版画でも27万円だと考えると、たしかにひどい。
でも、調べてみると、某人気漫画家の複製画にサインが入ると、30万円を超えていた。
大手出版社まで同じようなことをやっているとは……。絶句。
気に入ったのは、『要町テレフォンマン』の最後の一節。
「なあ、あんたもたまには、春の公園を昆虫くらいの速さで歩いてみるといいよ。日に焼けた石畳の一枚一枚に別な表情があるんだときっとわかることだろう。自宅に一番近い公園をゆっくりと散歩する。そいつはいつだって、ちょっとした大冒険なのだ。」
こういった感覚を忘れないところが、石田衣良の強みなのだろう、きっと。
『まほろ駅前多田便利軒』(三浦しをん,文藝春秋,2006.03.25) [本]
東京の外れの「まほろ市」(モデルは町田市)を舞台にしたお話。
印象としては、石田衣良の『池袋』シリーズの主人公の年齢を上げて、便利屋にしたようなお話に思えた。
印象的だった部分は、次のとおり。
そういえば、「仕事仲間」という便利な言葉があったっけ。忘れていたけれど。
私の今の人間関係だと、友だちといえるのは誰だろう?
もしかして、いない?(>_<)
印象としては、石田衣良の『池袋』シリーズの主人公の年齢を上げて、便利屋にしたようなお話に思えた。
印象的だった部分は、次のとおり。
「便利屋さんもおっさんも、家族いないの?」
「いないよ。どっちもバツイチだ」
「ムサいなあ」
清海は笑う。「でもいいね、友だちと暮らして、一緒に仕事するなんて」
ちっともよくない。しかも行天はべつに友だちってわけじゃない。心で反論した多田は、「そうか、この子にとっての人間関係は、まだ言葉で規定できるものばかりなんだな」と気づいた。大人になると、友だちでも知り合いでもない、微妙な距離のつきあいが増える。ふつうだったら、行天は「仕事仲間」に分類されるかもしれないが、行天はふつうじゃないので、それもピンとこなかった。
そういえば、「仕事仲間」という便利な言葉があったっけ。忘れていたけれど。
私の今の人間関係だと、友だちといえるのは誰だろう?
もしかして、いない?(>_<)
タグ:三浦しをん
『仏果を得ず』(三浦しをん,双葉社,2007.11.25) [本]
『研ぎ師太吉』(山本一力,新潮社,2007.12.20) [本]
深川を舞台にした、一力節。
研ぎ師が出刃包丁の研ぎを契機に、ある殺人事件に関わるようになり、真犯人を見つける、というのがあらすじ。
ただ、主人公の太吉にとって有利な知り合いや都合のいい人間関係があまりにも多く、少し納得できなかったのが残念。
研ぎ師が出刃包丁の研ぎを契機に、ある殺人事件に関わるようになり、真犯人を見つける、というのがあらすじ。
ただ、主人公の太吉にとって有利な知り合いや都合のいい人間関係があまりにも多く、少し納得できなかったのが残念。
タグ:山本一力
『ホルモー六景』(万城目学,角川書店,2007.11.25) [本]
今度映画化されるらしい『鴨川ホルモー』の続編。
といっても、こちらは「六景」の名の通り、6篇からなる短編集。
どの短編も、本編もしくは別の短編とうまくリンクしており、万城目学の手腕の冴えが感じられる。
特に泣けたのは「長持の恋」。
過去からの返信があったところで、「あっ、ジャック・フィニィの『愛の手紙』の本歌取り!?」と気がついたが、ぐいぐいと読まされてしまった。
最後の「ありがとう、私を見つけてくれて」という台詞には、ロバート・ネイサンの影響も感じられるけれど、読ませるし、泣けるいい短編だった。
そういえば、主人公の珠美が働いているのが、『鹿男あをによし』での重要な舞台となる『狐のは』であることからも、万城目学の自作への愛着が感じられるとともに、芸の細かさが表れていて好感が持てる。
新作が早く読んでみたい。
そうそう、加えて書くと、主人公が安倍で、ライバルが芦屋なのは、安倍晴明と芦屋道満の関係を意識していることに、「同志社大学黄竜陣」を読んでいて、芦屋の名前が「満」であることを知って、今さらに気がついた。となると、早良京子は「早良親王」で、菅原会長は「菅原道真」を意識しているのだろうか?
となると、楠木ふみは「楠木正成」?
だから、軍略の天才なのか?
親友の高村は、ひょっとして「小野篁」?
……う~む、奥が深い。
それにしても、ジャック・フィニィやロバート・ネイサンを知っている人も少なくなったんだろうなぁ。
『愛の手紙』は名作過ぎて、いろんな映画やドラマに翻案され、本家がかすんでしまっているような……。
フィニイの『ゲイルズバーグの春を愛す』は、古典ですが、名作です。ぜひご一読を。
といっても、こちらは「六景」の名の通り、6篇からなる短編集。
どの短編も、本編もしくは別の短編とうまくリンクしており、万城目学の手腕の冴えが感じられる。
特に泣けたのは「長持の恋」。
過去からの返信があったところで、「あっ、ジャック・フィニィの『愛の手紙』の本歌取り!?」と気がついたが、ぐいぐいと読まされてしまった。
最後の「ありがとう、私を見つけてくれて」という台詞には、ロバート・ネイサンの影響も感じられるけれど、読ませるし、泣けるいい短編だった。
そういえば、主人公の珠美が働いているのが、『鹿男あをによし』での重要な舞台となる『狐のは』であることからも、万城目学の自作への愛着が感じられるとともに、芸の細かさが表れていて好感が持てる。
新作が早く読んでみたい。
そうそう、加えて書くと、主人公が安倍で、ライバルが芦屋なのは、安倍晴明と芦屋道満の関係を意識していることに、「同志社大学黄竜陣」を読んでいて、芦屋の名前が「満」であることを知って、今さらに気がついた。となると、早良京子は「早良親王」で、菅原会長は「菅原道真」を意識しているのだろうか?
となると、楠木ふみは「楠木正成」?
だから、軍略の天才なのか?
親友の高村は、ひょっとして「小野篁」?
……う~む、奥が深い。
それにしても、ジャック・フィニィやロバート・ネイサンを知っている人も少なくなったんだろうなぁ。
『愛の手紙』は名作過ぎて、いろんな映画やドラマに翻案され、本家がかすんでしまっているような……。
フィニイの『ゲイルズバーグの春を愛す』は、古典ですが、名作です。ぜひご一読を。
『鴨川ホルモー』(万城目学,2006.04.20,産業編集センター) [本]
『たすけ鍼』(山本一力,朝日新聞社,2008.01.30) [本]
新刊。
渡世人はでないけれど、いつもながらの一力節全開。
主人公が鍼灸医だというところに斬新さがあるが、伏線が消化し切れておらず、物語としては未完。
渡世人はでないけれど、いつもながらの一力節全開。
主人公が鍼灸医だというところに斬新さがあるが、伏線が消化し切れておらず、物語としては未完。
タグ:山本一力
『そこに日本人がいた!-海を渡ったご先祖様たち』(熊田忠雄、新潮社、2007.12.15) [本]
BSの書評番組で紹介されていたので興味を持った本。
明治の人たちは、積極的に海外へ出て行ったらしい。すごいなぁ。
語学とか、その国に対する知識などは、現在の私たちに較べれば、ずっと少なかったろうに、果敢に活躍した人たちが多かったことに胸を打たれた。
その割に、今の日本で知られていないのはなぜだろう……?
明治の人たちは、積極的に海外へ出て行ったらしい。すごいなぁ。
語学とか、その国に対する知識などは、現在の私たちに較べれば、ずっと少なかったろうに、果敢に活躍した人たちが多かったことに胸を打たれた。
その割に、今の日本で知られていないのはなぜだろう……?
タグ:熊田忠雄